その54 生活者と詩人
〈このままいくと
職を失いそうだ〉
生活者が憂い顔をする
〈同僚や上司と
もう少しうまくつき合わないと
ちょっとぐらい愛想よくしたって
どうってこたァないだろう
それがオマンマを食うってことだろう
いい年をして〉
詩人は顔をしかめる
〈嫌な奴ばかりなのに
なんで言葉をかわさなきゃァならないんだ
話をしないってのが
いちばん正直で、誠実じゃないか
話ができる奴とは、ほんの少数だが
それなりに話してるさ〉
生活者は眉間に皺を寄せ
〈お前のように
誰とでも対立していると
辞めなければならないところへ
追いこまれるんだぞ
庇う奴はいない
いい気味ってもんだ〉
詩人は薄く笑う
〈いいじゃないか、それで
あんな奴らに
なんで俺が諂わねばならん
まっぴらだ〉
生活者は舌打ちして
〈いいのか、それで
職を失えば
妻はなんと言う
同居している
妻の両親はなんと言う
責められるのはお前だ
定年まで働くのが
家族への責任であり、約束だろう〉
詩人はフンと鼻を鳴らし
〈俺は我慢してきたぞ
二十数年間
もう大概いいだろう
俺は詩人なんだぞ、こう見えても
あいつらに愛想を言うようになれば
詩人の魂も朽ちてしまうぞ〉
生活者はクスリと笑う
〈そんなこと
誰が気にする〉
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