第4話
出社して最初にするのは宅配室に届いた手紙や封筒の振り分けである。自身のデスクへ行く途中に寄れる場所ならそのまま渡しに行き、離れた場所なら定例後に渡しに行く。郵便は朝昼夕方と三回に分けて届くのでその都度確認する。これも立派な仕事である。
今朝はどうやら少しだけのようだ。
「あ、常盤ちゃん。おはよう」
「おはようございます西川さん。今日の郵便はこれだけですか?」
守衛の西川さんは大型の荷物を預かることもしているからか、頻繁に会う諒と仲良くしてくれている。孫のようだと常に言われ、会うとチョコやらビスケットやらお菓子をくれる。完全に子供扱いである。
「えーっと、待ってよ。確か早朝に荷物が届いてたんだよ。あー、これだこれ」
宅配室の奥から丁寧に包まれた箱を持ってきた。中を確認するとどうやら菓子類のようだ。
「これは総務部宛てだね」
「え? うちですか」
珍しいこともあるもんだと宛名を確認すると渦中のTOコーポレーションの社長さまだった。
なるほど、やはりできる男なのだなと変な納得をして部へ向かうと課長と原田が既に出社していた。荷物は課長に手渡し、その他の封筒類はそれぞれの課に運んだ。周りにそこそこの挨拶をして朝のメールチェックをする。部材の発注や出張の手続き依頼、今日の社長の予定などのメールが大半だ。だが今日は珍しいものが混ざっていた。
『有馬です』
そう件名に書かれたメールがそこにはいた。
誰が見ているわけでもないのに思わずきょろきょろしてしまうぐらいには動揺した。
一瞬開くのをやめようかとマウスから手を離したが、そういうわけにはいかないわけで。
(ええい、ままよ!)
勢いに任せて開くと殊の外、文章は短かった。
『昨日はありがとう。偶然出会った貴女がまさかそちらの会社で働いているとは知らず、嬉しさのあまり話しかけてしまいましたがその後大丈夫でしたか? 怒られたりしていないでしょうか? お詫びになるか分かりませんが、ちょっとしたお菓子を送りましたので是非皆さんで食べてくださいね』
諒はその内容を読んでほっとした。どうやら昨日の事で機嫌を損ねたわけではないらしい。寧ろこちらを心配するメールだったようだ。
無意識に力が入っていたのか、数度深呼吸したら落ち着いてきた。あの少しの会話で会社に損害が出たら大変だ。せっかく居心地がいいこの会社とお別れすることになっていただろう。
(コーヒーでも淹れてこよう)
諒は席を立とうと腰を浮かせたところでメールの一番下に書いてあった文章に初めて目がいった。
『追伸:今度ナス料理の美味しいお店に行きましょう。いつでも良いので都合の良い日を教えてください』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます