第2話
「常盤さん、こっちの資料どうなってる?」
「それなら終わってますよ。必要部材の発注書は製品管理部に届けました」
「ありがとう。助かるわ」
「そういえばこの前社長が貰った差し入れが冷蔵庫に入ってるから諒ちゃん好きなの食べて良いよ〜」
「嬉しい! あとでいただきます」
「なあ常盤、この前のデータが見つからないんだけど」
「それなら第二サーバーの方ですよ課長。ほらここです」
「おっ、本当だ。すまんな」
「課長ったら常盤さんいないとダメダメですよね〜」
あははと周りは笑い、課長は笑顔で諒に飴を渡してきた。それはいつもの光景だ。同僚や上司は諒を頼ってくれて甘やかしてくれる。諒はこの職場が大好きだった。
「そういえば今日十五時に第一会議室を使うから机の準備しておいてくれ」
「はい、わかりました。人数はどのくらいですか」
「まだ先方の人数が把握できてないんだけど、こちらは五人」
社長と常務と……と指折り数えながら課長は手元にあった書類を諒に手渡した。その用紙には『TOコーポレーションとの異業種コラボの件について』とあった。
どうもそのコラボは異業種として持ち得ない知識や技術をお互いに提供しあい今までにない新しいモノを作り出すことを目的としているらしかった。
総務部に所属している諒には理解出来ないが、他にも難しいことが書いてある。斜め読みしていくと、そこに参加人数が記載されていた。
「ちょっと課長。ここに書いてあるじゃないですか」
「あれま、本当だ。いやぁ最近年取ったかな。おっかしいなー」
戯ける課長を無視して諒は席を立って斜め迎えのデスクにいる後輩の佐々木を呼んだ。
「佐々木くん、第一使うみたいだから手伝ってくれる?」
「あ、はい。ちょっと待ってください。整理してから行くんで」
諒の後輩である佐々木は大柄な外見に似つかわしくないほど几帳面な性格で席を外すたびに机上を片付けていく。
それが社会人として当たり前、と言わずとも正解行動である事にはかわらない。だが、実際片付けてから席を離れるのはなかなか出来ることではなく作業効率の事を考えると机の端に纏めておくぐらいだ。
そんな佐々木と第一会議室で机と椅子の調節とお茶の準備をしていると来客の連絡が来た。
今回、出迎えるのは部長たち上司の仕事らしいので諒と佐々木は邪魔にならないようそそくさ職場へ戻る事にした。しばらくすると会議が終わったのだろう、ぞろぞろと来客を引き連れて社内を案内する部長たちを見つけた。
パッと見る感じ用意した人数で間違っていないようだ。
何気なしに眺めているとその中にいつぞやのスリーピーススーツの男が混じっていることに気づいた。
「ナスの人だわ……」
「え?」
諒の小さな呟きが向かいのデスクに座っている石川の耳に入ったらしい。
「ナスの人ってなんだよ」
「ナスの人はナスの人なの。この前、ナスの良し悪しを教えてくれて」
「なんだそれ」
石川は諒の同期で入社した時からの付き合いである。諒は高卒入社だが石川は大卒入社で年齢は異なれど気安い仲だ。
「どいつだ」
「ほら、あの濃紺のスリーピーススーツの身長高い人」
衝立で各部署課が仕切られている広いフロアを椅子に座ったまま少し背伸びして説明する。よく見ると男はなかなかのイケメンだった。スーパーの明かりではあまり気づかなかったのかもしれない。
「ふーん。身長たけぇな」
「だいぶ見上げた気がするから絶対百八十センチ超えてるよね」
隣の石川を見上げる。百七十センチぐらいの石川は諒にとっては見上げやすい身長だった。
こっそり見ていたら振り向いた男と目が合った。
「やべ」
石川と同時に頭を引っ込める。
「……やましい事なんてしてないのに、反射的に隠れちゃった……」
「反射的って時点でやましい気持ちがあったんだよ」
「例えば?」
「仕事しないで覗き見」
「なるほど!」
などと話していると件の男が近づいて来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます