蟒蛇
綿涙粉緒
第1話
深川で医者をやっている竹庵という男は、たいそう変わり者で知られていた。
つい先日も、奥州より修行に来た仙台様の藩医が、その和漢の薬草に通じる本草学者のごとき博識に驚き、仙台へ戻らずにそのまま竹庵宅に住み込んでいるのだから、それに間違いはないだろう。
が、本人はといえば、蟒蛇(うわばみ)の如くに酒飲みで偏屈。
気の乗る時には深川の本宅から品川の方まで足を伸ばして往診に行くが、飲んでいる時や気の乗らない時は隣で寝ている患者の脈も診ないといわれるほどに気まぐれな医者でもある。
なのに、町衆からの人気は高い。
別に薬料を取らぬわけでもなければ、貧しきものに施しをしているわけでもないのに、医者の看板を掲げる通り沿いの三軒長屋にはひっきりなしに人が訪れ、下手をすれば元気なものまで上がり込んで碁や将棋を打つ姿も見られるほどだ。
とにかくこの医者、少なくともこの江戸の内にあっては、かなりの変わり者であることだけは確かなようである。
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