Stand by ・・・

江戸文 灰斗

プロローグ I STAND BY DEMON

俺はベッドから落ちた衝撃で目を覚ました。

外では小鳥が挨拶を交わすようにチュンチュンないている。

共に落ちたデジタル式の目覚まし時計は夜の2時を示していた。

俺は外の眩しさに釣り合わない時間帯を示していることから電池が切れていることを理解した。

俺は朝食をとるためとりあえずその時計とスマホを持って階段を降りる。

階段を降りる途中ふと気になってスマホを覗いた。

「んあ、九時半九時過ぎてる……」


やばい、完全に遅刻だ。

俺はとりあえず置いてあったアンパンをくわえて通学路を爆走した。

なんで夜更かしした翌日に限って目覚まし時計の電池きれてるんだよ。

こういう時の信号待ちはいつもよりも長く感じて焦る。

今日は史上最速のタイムで学校に着いた。


「ハァハァ、やっと着いた」

教室のドアを勢いよく開けて挨拶をするとクッとみんなの視線が俺の方を向く。

「おはようございます、寺田くん」

「おはよう。いやぁ目覚まし時計が電池きれてて焦っちゃったよ。まあでも間に合ったからいいけど・・・・・・あ」

声をかけられ振り向くと勅使河原先生、通称オニガワラ先生が大きなコンパス片手に仁王立ちをしていた。その立ち姿はさながら不動明王。

クラスメイトはいい暇つぶしだとことの運びを眺めていて助け舟が来る様子もない。

「あの、寺田くん」

「は、はいなんでしょうかオニガワラ先生」

やばいと口を抑えたがもう遅い。

オニガワラの顔は今度は閻魔大王のように赤く染まり、コンパスはワナワナと震え出した。ヒステリー三秒前。

「今は授業中です!それに私の名前はオニガワラじゃなくて勅使河原てしがわら!」

時計を見ると、長針は一時間目の中盤にさしかかろうとしていた。

オニガワラの本当に鬼のような大声にクラスは静まりかえった。

「すみません! オニガ、勅使河原先生」

ふふっと言う声が教室の一角から聞こえた。その笑いは伝播していき、教室は笑いの渦に巻き込まれた。

その後オニガワラが何度怒鳴っても状況は収まらずそのまま授業が終わってしまったのだった。


終わりの鐘がなり、大きく伸びをしていると突然目の前に影が現れた。

俺はその見なれた影に軽く挨拶をした。

「おはよう奏多。今朝はいないからびっくりしたよ」

影の正体は野口蓮だった。高校からの付き合いだが親友と呼べるほど気が合う。学年が変わってクラスが変わっても毎時間こっちに来てくれるほど仲が良い。

「さっきはオニガワラ先生の怒鳴り声がこっちまで聞こえてきたけど大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。ただ俺がおちょくってやっただけ」

「あぁ、何となくわかってたよ」

蓮は呆れたように首を振った。手入れされているウェーブのかかった真っ黒な髪がふわりと揺れた。

「ところで、今週の土曜とか予定ある?」

蓮が唐突に切り出してきた。

「土曜日?ちょっと待って」

俺はスマホのカレンダーアプリを開いた。

予定をとりあえずカレンダーに書く癖をつけている。お陰でクラスではマメな人という印象になっているようだ。

土曜日は特に何も無さそうだな。

「大丈夫だけどなに?」

「大したことじゃないんだけどさ。ちょっと一緒に行きたいところがあってね」

「行きたいところ?」

何か嫌な予感がする。絶対行きたくないような所に連れていかれる気がする。

「遊園地に行くんだけど」

圧倒的普通。嫌な予感は外れたようだ。俺はほっと胸を撫で下ろした。

「優希ちゃんと」

よりにもよって優希かよ。嫌な予感はこれの事か。

思わず俺は頭を抱えた。

「あ、ああそうだよな。わかった行く」

俺と蓮の二人がかりじゃないと優希は止められない。

あいつの悪行は数しれず、被害は累計で窓ガラス五枚 蛍光灯八本 消火器三本etc...とにかく色んなものを壊してきた。

一番大きいのは校庭のそばに置いてある二宮金次郎の頭をふっ飛ばした事か。

なんで退学にならないのか不思議なくらいだが彼女は素行の悪いという訳でもなく全て悪気がなく全て偶然に偶然が重なって起きたことなのだ。

だからこそタチが悪い。

そう彼女はいわゆる不幸体質を持つ人間なのだ。

そんな優希を遊園地になんか連れて行ってみろ。

多分ジェットコースター一機は壊すと思う。

そして出禁になることは避けられないだろう。

ああ行くって言っちゃったもんなー。でも一緒に行くのは優希だもんなー。

最終兵器がすぐ側にいるのにジェットコースターに乗ったりするなんて生きた心地がしない。

「さっきから何かなやんでいる様子だけど大丈夫?別に無理に行かなくてもいいんだよ」

「大丈夫。ただ優希が遊園地に行くとさ何かと危なそうだけど」

蓮はその事実を忘れていたらしい。気づいた瞬間に顔が青くなった。

「どうしよう。遊園地はやめておこうか・・・・・・」

「そうだな」

「まあでもどこかへ遊びに行きたいよね」

どこかへ行く、か。三人ともアウトドアって柄じゃないしそうなると博物館とかになるか。なんだろう、どこにいってもダメな気がしてきた。

「蓮、今度また決めようぜ。土曜日まであと三日もあるんだから」

「そうだね。もうすぐ休み時間終わるし行くね」

蓮は自分の教室に足を向けた。

なんだか蓮は歩くスピードが遅い気がする。というか変則的な歩行スピードと言った方がいいか。

無意識なのか、離れたくない所から離れたり行きたくない所へ行く時は蓮は自然と歩くスピードが落ちるみたいだ。

気持ちはわからなくもないが体が素直すぎるとつくづく思う。

次はこれ理科。実験は好きだけどひたすら先生が喋り倒す授業の時はあんまり好きじゃない。

今日もあと五時間と部活だけだ。

よし張り切って頑張るか。

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