31.戦闘狂

タニアとかいう金ランク冒険者、いかにも胡散くさい感じがする。一見只人のようではあるが、魔力の質・量ともに紫ランクの冒険者とは一線を画している。そして、おそらく人間と何かとの混ざりものだろう。


……エイブラハムさんから言われていた「魔族ハンター」の師匠とこんなに早く邂逅するとは思わなかった。会いたくないと願っていたのに……。というか、魔族ハンターを自称しておきながら俺には気付いていないのか? 態度が曖昧過ぎて俺には判別がつかなかった。もし気付いていなかったとすれば、角付き長耳族という俺の詭弁にも現実性が出てきてしまう。



討伐本隊は、さっきの隣の部屋で説明を受ける。部屋の内装は先の部屋と全く同じだったが、面子は違った。人数は少ないものの、戦力でいえばこちらの方が遥か上。その中においてもタニアは頭ひとつ抜きん出ているような気がする。


「失礼、ちょっと用があってね。……さて、どこまで話したっけ? ああそうそう、取り敢えず魔王の居所掴んだら突撃! って感じで適宜自由によろしく」

説明をするのはタニアだったが、その適当さは到底説明とは呼べないものだった。わざわざ俺達呼ぶ意味あったか?


「作戦とかは特にないんだけど──」

支離滅裂な、だがどこか親近感を感じさせる説明に首を傾げていると、タニアは嬉しそうに腰に手を当てて宣言する。


「──互いの力試しとか、したくない?」

したい。

そう思ったのは俺だけではないようだ。隣に立っている上半身が牛の大男も、冒険者というよりむしろ騎士に近い風貌の金髪の青年も、嬉しげなざわめきを起こしていた。何より発言した張本人が満面の笑みだ。


アレーナは信じられないといった表情で周囲を見渡している。金銭も発生しないのに、と。


「練兵場を、実は僕の権力で! 予約しておきました!」

練兵場……?

聞き慣れない言葉だが、兵を訓練する場所なのだろう。黄金ランクの冒険者は権力もあるのだなあ。そこで戦って、力量を測ると。


冒険者達は更にテンションを上げて盛り上がっている。


「昼食後くらいに待ってるから、自由参加でどうぞ。まだ説明続くんで、出て行くのは待っててね」

気がはやった数人が部屋から出て行こうとするのを制する。


「連絡とか疎かにしてると、肝心の魔王討伐に参加できなくなっちゃうかもしれないので、3日に1回は冒険者ギルドの受付に報告を! だから、王都を3日以上留守にするようなことは控えてもらいたい。戦いたかったら、都度僕が相手になる」

大きく頷いて胸をトントンと拳で叩く。連戦も厭わないということは、相当実力に自信があるらしい。1回の戦闘、特に1対1の決闘では消耗が激しい魔法師であると見受けられるのに。


「ともあれ、君達に期待されているのは圧倒的な戦力だ。なに、そこまで神経質にならなくても、職員が血なまこで探すさ。……説明終わり! 練兵場行こう!」

手を2回叩いて、言い終わるなり扉の方へ向かうタニア。他の冒険者もタニアに続いて退室し、俺達も追従する。


戦力だけを期待されている、裏を返せば戦力以外の面ではどんな人物であろうと構わない、と。部屋にいる冒険者達の様子を見る限り、俺と同じく戦闘一辺倒な感じの人が多そうに思える。


俺は魔王アザゼル討伐本隊の冒険者達に勝手に親近感を覚えつつ、これからするであろう練兵場での力試しに胸を躍らせていた。

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