26.はじまりの村

再度視認阻害と飛行の魔法を掛け、冒険者生活をスタートさせた最初の村まで向かう。迷ってしまうのではないかとも思ったが、ほんの少しばかり上昇して見渡せば見つかる程度の距離だった。

数日間迷ったのが恥ずかしいくらい近い。


木陰に降り立って視認阻害を解く。門番の人に挨拶して、長閑な雰囲気が漂う寒村へ戻ってきた。当たり前だが、セバルドに比べると殺風景である。


その中にあっては大きめの建物が、冒険者ギルドである。

前は緊張して冒険者ギルドに入れなかったものだが、人間にももうとっくに慣れた。建て付けの悪い扉を押すと、懐かしい顔があった。


「久しぶりじゃないか! シェミハザの兄ちゃん。あの訳分からない帽子をやめて、男前になったぞ」

受付の……グレアムさんだ。

シェミハザか。もはやその名前すら偽物なんだがな。名無しですと名乗る訳にもいかない。知り合いであるらしいアザゼルの前以外では名前を借りることとしよう。


「なんか浮かない顔してるけど、どうした。アレーナに振られたか? そうそう、それとセバルドが大変なことになったみたいじゃないか。大丈夫なのか」

「そういうわけじゃないですよ。セバルドは、モンスターの襲撃で散々なことになってはいますけど、ひとまずは撃退したんで今のところは落ち着いてます」

アレーナに振られるも何も、ただの仲間でしかないのだが。セバルドについては、それはもう滅茶苦茶になっている。この村とはそれ程距離が離れている訳ではないのに、情報が届くのが遅いらしく、村では慌てているような様子はなかった。


暗い話題だけでもなんだから、俺が赤ランク、アレーナが青ランクに昇格したことを伝えると大層喜んでくれた。


「アレーナはそろそろランクが上がるだろうと思ってたんだ。だけど兄ちゃんは凄いぞ! 登録しにきたと思ったら、もう赤ランクなんだからなぁ。紫ランクも夢じゃないんじゃないか? 何の依頼を受けていたらそうなる」

「賞金首を捕まえてましたね」

そう言うと驚かれる。クエレブレは透視、アレーナは斥候、俺は魔力探知がそれぞれ得意だったからできた芸当だ。


「それであっという間に赤ランクか。治安維持に貢献しているんだな。……聞きそびれていたが、セバルドはどんな状況だったんだ?」

「建物はかなり破壊されてましたよ。街の中心部はそれほど被害が出ず……あと、住民はほとんど避難してました」

門が壊れていたから、復旧にはそれなりに時間がかかるだろうな。俺の魔法で直せないこともないが、騒ぎを起こしたくない。


「となると、物資がしばらく厳しくなるかもな。ありがとよ。しかしいいのかい。わざわざ伝えに村に来た訳じゃなさそうだけどよ」

「……村の近くに、古城がありますよね」

「おお、あるな」

アレーナと離れた理由、やはり訊かれるか。

全てを伝える気はない。当たらずとも遠からずの返事を返しておこう。


「復興に充てるための財宝があの城にあると聞いて、探しに来たんですよ」

うまいことを言おうと思ったが、見事なまでに支離滅裂な答えが口から出てしまった。

当たらずとも……遠い。


「それで見つからなくてしょぼくれてるってわけだな? ははあ、なるほど。はっはっは! まあそんな時もあるさ」

こんな言い訳じみた理由で信じられてしまい、逆に動揺する。財宝は手に入れられたから、向ける顔がないと言うわけでもないが自分の中では不完全燃焼というだけである。


「今日はもう日が沈んでるが、どうするんだ? 明日もやるのか」

「いや、仲間が心配なんで帰ります。心配されてる方かもしれないですけど」

「夜道は危険……っと、兄ちゃんには関係ない話だな」

腕には自信あるので、と謙遜することなく答えてカウンターから離れる。グレアムさんは手を振り、俺は手を振り返した。


外は既に暗く、星空が浮かんでいる。

俺に戻る場所などありはしないが、仲間達のいる場所が即ち戻るべき所なのだ──なんて。ちょっと格好つけすぎたな。

帰るか。

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