俺の欲望を叶える為には、魔王と呼ばれても仕方がない
小碓命
第1話 終わりと始まり
俺が気がついたのは漆黒の闇の中だった。
何も見えない中で、時折、「・・・ポチャン、・・・ポチャン」と水滴の滴る音がする。
空気は生暖かく、生臭い。
「・・・・俺・・・・死んだのか?まだ女も知らないのに・・・・」
ハッキリした事はわからないが、恐らくそうだろう。
俺の記憶の最後は、地下のライブハウスでの火事で、ただ1箇所の出入り口に誰もが殺到し、ソレに巻き込まれた人の圧力と、背後から伝わる火災の熱さと煙による息苦しさだった。
どれが俺の死因かわからないが、逃げ遅れた事だけは覚えている。
あの世界に別に未練はないが、心残りなのは、自分が童貞である事だけであった。
今は、呼吸も出来るし、皮膚の感覚もあるし、何故だか性欲もある。
それにちゃんと意識もあるので、死んだ実感は無いのだが、記憶の状況から考えると生きている方がおかしいのだ。
俺はそっと起き上がり、真っ暗な中を手を前にして、足元に穴がないか注意しながら前に進む。
不思議な事だが、死んだと思っても、死を避けようとする気持ちが残っている。
そして突然、「ヌルッ」とした冷たい岩壁に手が当たった。
(うへぇっ、鼻水みたいで気持ち悪い)
そう思うが、先へと進むしか選択はない。
気持ち悪い壁伝いに進んでいくと、少し明るいところに出たところで、いきなり何かに肩を捕まれた。
俺が後ろを振り返り、赤白い光の中で見えたものは、生きたまま人を喰らう巨人で、頭に青白い立派な一つのツノが生えている。
(・・・鬼?)
腕を掴んだ力が尋常でなく、俺は振り解けずに必死に暴れるが、そのまま鬼に抱えられ鬼は俺の腹に噛り付いた。
その途端、今まで感じたことの無い痛みが体を突き抜ける。
「ウギャー」
自分の腹の半分が齧り取られ、臓物が飛び出し、そこから溢れる血が辺りを染める。
俺は、痛みと苦しみでもがきながら暴れ叫ぶのだが、鬼にガッシリと掴まれ逃げられない。
「バリッ、バキバキッ、ボリッ、ガリッ」
「ウギャー、おおぁ、ギャア」
生きたまま喰われる激痛。
その痛みによる自分の叫び声に混じって、巨人が俺のアバラ骨を噛み砕く音が聞こえる。
その鬼の口から滴る真っ赤な血の量を考えると、これで意識がある方がおかしい。
そして、とうとう俺の体は食い尽くされ、残ったのは首から上だけである。
今まさに、目の前に鬼の口が迫ってくる。
その大きな口の中に見える凶悪に尖った歯が顔の前に・・・。
あまりの恐怖に声も出ない。
そのまま頭にカブりつかれて意識が途絶えた。
そう、ここは地獄だった。
痛みと恐怖に苦しみながら鬼に喰われても、またこの暗闇に復活して、再度、鬼に捕まって喰われる事を延々と繰り返すのだ。
これは俺が生きている時に、死に憧れる歌を作っていた報いだろうか。
社会の理不尽さを呪い、誰もに平等に与えられる死のみが救いだと何曲も作り、ソレがROCKだと歌ってきたのだ。
女性に対するコミュ障の癖に、バンドを組めば女にモテるだろうと始めた結果がコレだったので、最悪である。
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