第152話 驚き
1時間ほどトレーニングをした後、体育館で休憩をしていると、敷地内に1台の車が入り、宿舎の脇にある駐車場に車を停めていた。
『桜さんかな?』
そう思いながら入口の方を眺めていると、桜さんの後ろには、制服姿の千歳の姿。
あまりにも驚き、息ができないでいると、英雄さんが千歳に駆け寄り切り出した。
「ちー、すぐ準備してこい」
「その前に洗濯していい? 帰ってないから着替えがないんだよ」
「どこ行ってたんだよ?」
「陸上部の合宿。 帰ろうとしたら、学校の前で桜ちゃんが待ってた」
「捕獲されたのか?」
「うん。 薫君! 洗濯物あるならついでにしてきちゃうよ」
千歳が大声で言うと、薫は慌てたように洗濯物の入っている籠をもって千歳の元に駆けだし、桜さんと3人で宿舎の中に。
久しぶりに見た千歳は、日焼けをしていたせいか、より一層健康的で、元気いっぱいな印象を受けていた。
その後もトレーニングを続けていたんだけど、杉崎が英雄さんに歩み寄り切り出した。
「合宿って意味あるんすか?」
「なんだ? 嫌か?」
「ジム通いした方がマシっすよね?」
「…どこに通ってるんだ?」
「東条っす」
「…何年目だ?」
「1年しか経ってないんすけど、『うちの隠し玉はお前だ』って言われちゃって、期待されまくってるんすよ。 ぶっちゃけ、合宿なんて意味ないから、東条に行きたいんすよねぇ」
杉崎の言葉を聞き、英雄さんの表情が徐々に曇りはじめ、中田ジムの面々は英雄さんから遠ざかっていく。
『あ、これはやばい奴だ…』
光君とともにシレっと後ずさりをしていると、トレーニングウェアに身を包んだ桜さんと千歳が中に入り、英雄さんが怒鳴りつけた。
「ちー! リング上がれ!!」
「は? なんで?」
「うちと東条の隠し玉で勝負しろ!」
「ん。 手加減するわ」
千歳はいきなり呼ばれたせいでシューズがなく、当然のように足にテーピングを巻きはじめ、杉崎は千歳をバカにするように笑うだけ。
杉崎がリングに上がった後、千歳はゆっくりとリングに上がり切り出した。
「そういやさ、『綾瀬梨花ちゃん』元気?」
「は? お前、梨花のこと知ってんの?」
「キックの大会で対戦した」
「はぁ? どうせ初戦だろ?」
「決勝」
千歳はそれだけ言うと、『パン』っとグローブを合わせて音を立て、リング中央へと向かい始める。
杉崎はその音を聞いただけで縮こまってしまい、戦意喪失していた。
千歳は呆れたようにグローブで杉崎を指し、英雄さんは呆れたように顔を横に振る。
「仕方ないな。 奏介、リング上がれ」
「え? 俺っすか?」
「たまにはいいだろ。 ちー、3ラウンドだ」
不安になりながらもリングに上がり、千歳とスパーリングをしていたんだけど、俺の体力と筋力がついてきたせいか、千歳のパンチがあまり響いてこない。
千歳を殴るのもどうかと思い、グローブを狙ってジャブだけを繰り出していると、千歳は一気に近づき、抱き着いてきた。
「…殴れ」
「無理」
マウスピースのせいではっきりとは喋れなかったんだけど、何を言ってるのかは伝わってくる。
英雄さんに引きはがされ、千歳のグローブを狙ってジャブだけを打ち続けていると、千歳は再度踏み込み、抱き着いてきた。
「殴れって」
「無理だって」
その後も、千歳にジャブを繰り出し、抱き着かれては英雄さんに引きはがされ続けていたんだけど、ジャブを繰り出した瞬間、千歳はガードをしながら踏み込んできた。
『クリンチ』
そう思った瞬間、顎に衝撃が走り、立てなくなってしまった。
『嘘… クリンチじゃないの? アッパーって酷くね?』
顎を抑えながらうずくまっていると、千歳が呆れたようにマウスピースを外し、切り出してくる。
「リングの上で、ボクシング以外のことを考えない方がいいよ? 正面に立った瞬間から敵なんだから、『仲が良い』とか『友達』とか、そういうの忘れなよ」
千歳ははっきりとそう言い切ると、呆れたようにリングを降りてしまい、何も言うことができずにいた。
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