第147話 誤解

千歳と冗談を交えながら下校し、ジムに行った後に帰宅すると、カズさんが切り出してきた。


「荷物届いてたぞ」


荷物を受け取り、箱を開けると、そこにはネットで注文しておいた新しいシューズと靴紐が入っていた。



翌日、畠山君に新しい靴紐と古い靴紐を手渡すと、畠山君が切り出してきた。


「星野の件、解決した?」


「あいつ、俺に興味がある訳じゃないから、どうしていいかわかんないんだよ。 彼女らしい行動をするわけじゃないし、放っておくのが一番だろ」


完全に呆れながらそう言い切ると、畠山君は苦笑いを浮かべるばかりだった。



やっとの思いで顔の腫れが完全に引き、部室に行こうとすると、更衣室に向かおうとする千歳の後ろ姿が視界に飛び込んだ。


慌てて千歳を追いかけ、隣にぴったりと並んだ瞬間、背後から「奏介~!」と大声で呼ぶ女の声が聞こえ、振り返ると星野が抱き着いてきた。


「な!?」


「部活いくんでしょ? 一緒に行こ!」


星野は当たり前のように俺の腕に腕を絡ませ、腕を引っ張って部室に向かおうとし、千歳は軽蔑するような目で俺を見て、黙ったままその場を後にしている。


ずっと星野は何もしてこなかったし、何かを言ってくることもなかったから、完全に油断していたんだけど、このタイミングで抱き着いてくるなんて思いもせず、腕を振り払い、慌てて千歳を追いかけることしか出来なかった。


「ちー! 待てって!」


千歳の腕を掴みながら言うと、千歳は軽蔑する目で見てくるばかり。


すると、慌てて追いかけてきた星野が、俺に向かって切り出してきた。


「ちーって英雄の娘? 英雄に近づくために、ちーに近づいたんでしょ? 奏介、前に言ってたよね? 『英雄に近づけたから、娘は用済みだ』って。 あれって『千尋』って名前じゃなかったっけ?」


星野の言葉は、千歳の眉間の皺をさらに深くしてしまい、千歳は何も言わずに手を振り払い、更衣室へと駆け出してしまった。


「な、何ほざいてんだよ!!」


「事実でしょ? 千尋って千歳の妹? それとも姉?」


「千尋なんていねーよ!」


苛立ちながら更衣室の前に行ったんだけど、更衣室の中からは、大勢の女子生徒の声が聞こえ、何も言えないままに部室へ向かっていた。



『最悪だ… あの破壊神、これを狙ってたのか?』


考えれば考えるほど気持ちが落ち込み、どんなに解決策を考えても、まともな答えが出ずにいた。


ボクシング場に行き、しばらくすると、薫がボクシング場に現れたんだけど、薫は俺の顔を見るなり、俺を外に呼び出した。


「奏介君ごめん。 千歳ちゃんに話しちゃった…」


「何を?」


「試合の時に起きたこと。 『話さなかったら、ボクシング部辞める』って断言されて、部分的に話しちゃった… ホントごめん!!」


「まじかよ…」


「で、でもね、ちゃんとボクシング部には来てくれるって約束したんだ。 大会があるから、陸上部がないときだけ、新入部員の指導しに来てくれるって」


「…来ると思う?」


「来るよ! 千歳ちゃん、約束は絶対に守ってくれる人だし、言葉に出したことは絶対に行動する子だよ? だから大丈夫!! 今日も来てくれるって言ってたし、絶対に来るよ!!」


説得するようにそう言われたんだけど、薫の言葉を聞いていると、不安ばかりが募り、千歳の言っていた言葉が頭をよぎった。


【早く解決しないと逃げちゃうぞ~】



『言うチャンスは腐るほどあったのに、なんで話せなかったんだろ… どうして顔を見ると、大事なことをなんも言えなかったんだろ… もっと早くに伝えてれば、別の解決策が浮かんだかもしれないのに、あんな最悪なことを当たり前のように言われて、しかも誤解されるなんて…』


大きくため息をつきながら立ち上がり、ボクシング場へと向かっていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る