第124話 誤魔化し

ジムの最寄り駅についた後、ヨシ君に切り出され、駅前のゲームセンターへ。


ゲームセンターに入り、ヨシ君の後を追いかけていると、目の前には反射神経ゲームが置いてあった。


「あった! コレ、ずっと探してたんだよ! 奏介、勝負しようぜ」


ヨシ君に切り出され、反射神経ゲームで勝負することに。


いくつもあるボタンが青く光ったときに、次々に押していくだけのゲームなんだけど、次にどこが光るかわからず、反射神経を求められ、かなり難しい。


勝負の結果、俺が201点だったのに対し、ヨシ君は215点。


ヨシ君は俺をバカにし続け、苛立ちながら再戦を切り出す。


再戦した結果、俺が219点だったのに対し、ヨシ君は219点。


まさかの結果に驚いていると、ヨシ君はムキになるように再再戦を切り出し、店員に注意をされる始末。


みんなも勝負をしていたんだけど、全員の中で最高点をたたき出したのが、智也君の231点。


店員の刺すような視線から逃げるように、ゲームセンターを後にし、まっすぐに千歳の家に行くと、千歳たちはとっくに帰宅していたようで、英雄さんと吉野さん、高山さんはリビングで話をしていた。


奥に行くなり、ヨシ君は高山さんの隣に座りながら切り出す。


「あれ? チャンピオンは?」


「上にいるぞ。 カズからケーキもらってきたから、誰か呼んできてくれるか?」


英雄さんの言葉を合図にしたように、みんなは一斉に俺を見てくる。


「…行ってきます」


急ぎ足で階段を駆け上がり、ノックした後にドアを開けると、トレーニングウェアに着替え終えた千歳は、どこかに行こうとしていた。


「あれ? どっか行くのか?」


「うん。 不完全燃焼だったし、縄跳びしに行く」


「そりゃあ、元世界チャンピオンと毎日スパーしてるやつが、同年代のキックボクサー相手にしたって張り合いねぇだろ? カズさんだって元プロだし」


「そっか… 私、恵まれてるんだね。 今気が付いた」


そう言いながら、にっこりと微笑んでくる千歳は、イライラした様子がなく、試合前の千歳に戻った事を物語っている。


一気に距離が近くなったように感じ、思わずホッとし、顔が綻んでしまった。


「何笑ってんの?」


「ん? …ベルトおめでとう」


綻んだ顔のままそう告げると、千歳はにっこりと笑いかけてくる。


「ありがと」



ゆっくりと千歳の頭に手を乗せ、グシャグシャッと頭をなでると、千歳は少しだけ顔を赤らめ、目を潤ませたように輝かせながら俺を見てくる。


『光君を見るときの顔だ… あの時と同じ顔して俺を見てる…』


千歳の潤んだ目に吸い込まれるように、千歳の小さな体を抱きしめていた。


「…キス、してもいい?」


耳元で囁くように告げると、千歳は黙ったまま固まってしまう。


おでこに唇を落とした後、頬に手を当てても、千歳は逃げることなく、俺を見つめてくるだけ。


ゆっくりと顔を近づけ、千歳の唇に唇を重ねようとした瞬間、廊下から英雄さんの声が響いてきた。


「おーい、ケーキ食うぞ~」


慌てて腕を話した途端、ドアが開く音が聞こえ、千歳が声を上げてきた。


「ゴロゴロするんだって!」


千歳はそう言いながら目をこすり始め、英雄さんが不思議そうな声を上げる。


「どうした?」


「目にゴミが入ったから、奏介に見てもらってた」


千歳はそう言いながら、目をこすり始め、慌てて千歳に話を合わせた。


「擦っちゃダメだって言ってるじゃん」


「だって、ゴロゴロするんだもん…」


英雄さんは俺を退かし、千歳の目をこじ開けながら見始めていた。


『助かった…』


ホッと胸をなでおろしていると、千歳の目を見ながら、英雄さんが声を上げる。


「何もないから、擦ったときに取れたんじゃないか? 気になるなら洗面所で洗っとけよ。 奏介、トレーニングウェアは更衣室にあるのか?」


「はい。 あります」


「そうか。 ケーキ食って、少し休憩したらリング上がれな?」


「え? 何でですか?」


「お前、千歳の顔、触ってたろ? 気やすく触るな」


『マジか… 顔触っただけでダメって… 今までのことがバレたら、生きて帰れないだろうな…』


軽く身震いしながら二人の後を追いかけ、部屋を後にしていた。

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