第114話 始動
光君が帰った後、千歳は凌を引き連れてジムに行き、桜さんとカズさんの3人でそれを見ていたんだけど…
千歳は当然のようにノーモーションパンチを繰り返し、凌はボコボコにされ続けていた。
『す… すげー…』
毎日の筋トレとロードワークを熟しているせいか、千歳はフットワークもいいし、フェイントの合間に想像以上のパンチ力と、スピードを見せつけ続けていた。
カズさんはそんな姿を見て、呟くように切り出した。
「千歳、かなりレベル上がったな」
「でしょ! 嫌がって表に出ないだけだもん」
桜さんが声色をあげて言うと、千歳の怒鳴り声が響き渡る。
「早く立てや!!」
「ほんとごめんなさぁい…」
凌は今にも泣きだしそうな声で叫びはじめ、ボコボコにされ続けていた。
数日後から、千歳がキックのトレーニングを開始し、吉野さんは千歳に付きっ切りの状態に。
午前中に、主婦層のトレーニングがあったんだけど、高山さんが手伝ってくれるようになったおかげで、活気を失わずにいた。
午後になり、陸人と学たちを含めた、中学生たちのトレーニングが開始したんだけど、トレーニングを終えた後、英雄さんがみんなに切り出してきた。
「面白いもん見たいやつはこのまま残れ」
不思議に思いながら陸人と学の3人で話していると、千歳がジムに入ってきたんだけど、千歳はジムに入るなり、アンクルサポーターを履き、吉野さんに声をかけた。
「ミットお願いします」
吉野さんは嬉しそうにミットを持ち、千歳のキックを受けていたんだけど、そのテンポの速さと音の大きさに、陸人と学の3人で呆然としていた。
誰も言葉を発することができずにいると、英雄さんが満足げに歩み寄り、切り出してきた。
「すごいだろ? うちの娘」
何も言えないまま、呆然とリングの上を眺めていると、ミット内を終えた千歳はリングを下りて俺の隣に座り、スポーツドリンクを両手で抱えて飲み始める。
「絶好調だな」
「しばらく休んだし、充電は完璧」
千歳がそう言い切った後、ジムの扉が開き、カズさんと光君が中に入ってきたんだけど、カズさんはトレーニングウェアに身を包み、千歳はそれを見た途端、視線をそらした。
カズさんは吉野さんと話をするなり、千歳に切り出した。
「ちー、スパーしようぜ」
「やだ」
間髪入れずに千歳は拒否していたんだけど、カズ兄はノリノリで、光君にグローブを嵌めてもらい始める。
「俺、カズさんがリング上がるところ初めて見るかも…」
呟くように言うと、すぐさまカズさんはリングに上がり、千歳を急かし始めた。
「早くしろよ」
千歳は諦めたように、ゆっくりとリングに上がり、吉野さんの合図と同時にグローブを軽く合わせ、少し距離を取った瞬間。
カズさんの長い右足が千歳の脇腹に直撃し、千歳はいとも簡単に吹き飛ばされていた。
『マジか!』
慌てて千歳に駆け寄ろうとすると、千歳は脇腹を押さえながらも、ゆっくりと立ち上がり、ファイティングポーズをとってカズさんの前へ。
『マジで? あれ食らって立っちゃうの?』
呆然としながらリングの上を見ていると、光君が隣に並び、呟くように切り出してきた。
「凄くね? この妹。 カズはプロだけど、ちーはアマチュアなんだぜ?」
「…半端ないっす」
千歳は小さな体を更に小さくし、何度もパンチを繰り返していたんだけど、カズさんはどんなにパンチを食らっても倒れない。
千歳がカズさんの右ジャブを躱した瞬間、千歳は右腕を後ろに引いた。
『右ストレート!』
カズさんが体を傾け、右ストレートを躱そうとした瞬間、千歳の左ハイキックがカズさんの首にめり込み、カズさんは肩膝をついていた。
「マジかよ!!」
思わず光君とハモってしまうと、カズさんは頭を左右に倒しながらゆっくりと立ち上がる。
『え? マジで? 立てちゃうの?』
カズさんの行動に呆然としていると、カズさんは笑いながら呟いた。
「面白れぇ」
不安そうに構える千歳の前で、カズさんは当然のようにファイティングポーズをとる。
『あ、千歳、生きて帰れないかも…』
千歳は果敢にカズさんに向って攻撃を仕掛け続け、カウンターを食らいまくっていた。
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