第14話  日々日常  野外活動 Ⅴ

 扉が開く。

 開いた先へ私達は足を踏み出す、その先へ……。


 目の前にはアイボリーを基調とする大きな建物。

 まぁね、ここで白系のモノを使わなきゃ何処で使うんだって場所だもん。


「げっ、何でここなんだよっ!!」

「何を言ってんのよ、保護者の私が朝からあんたを連れてくる場所って言ったら一つしかないじゃない」

「つか、何でフェティーが俺の保護者なんだよ!! 年齢としから言ったって俺と1歳しか変わんないし、どっちかって言えばトリシャが保護者って言ってもいい年齢ねんれいじゃ――――ぐふぇっっ!?」

「何かと失礼な言動です、サム」


 トリシャは素早くそして一瞬で、サムの鳩尾みぞおちへ渾身の肘鉄を食らわしていた。

 ご愁傷様サム、トリシャを怒らせる言動を言ったあんたが悪い。

 いてててて……とこれ見よがしにサムは鳩尾を擦っている否、実際相当に痛いんだろうね。

 だってトリシャは私付きの侍女だけれどそれだけじゃあない。

 そう勿論腕利きの治療魔導師レメディウム・マギカもだけれど、公女兼賢者マギのである私の専属護衛官ボディーガードだからね、何と申しましてもその体術は絶対に侮れない。


 はい、それは私が一番よく理解しています。

 それはもう身を以って……ね。


 えーっと話は元に戻ってここは魔導師マギカになる者にとって一度は入学したいと言われるラインフェルト公国にある魔法学院マグナ・スコラ


ラインフェルトうちの国民は勿論……他国からの留学生も大勢受け入れている。

 そしてここでは貧富の差は余り関係はない。

 まぁお金をがっぽりと持っているだろう王侯貴族の子息や令嬢達からはしっかりと授業料は頂いていますよ。

 はい、これは当然だね。

またそうでない者へは基本授業料無料だよ。


 でもその変わりっちゃあなんだけれど毎日2時間だけ、そうね日が暮れるまでに農作業を従事する事。


 これは土いじりの大好きな母様が、大公妃となって初めて会議にかけられ即決で決まった立派な法律に基づいて行っている事。

 なんでも母様が言う事には「土と向き合って生きていれば悪い事をしようなんて考える人はいない」んだってさ。


 因みに私は虫が大っ嫌いだから余り……ほぼほぼ近寄らなかった。

 また王侯貴族達も例外ではない。

 授業料ガッポリふんだくってなんだけれど、ボランティアの一環として週三回で二時間ずつ――――が義務付けされている。


 最初の頃はかなり抵抗していた者も多かったけれど、実際自分の手で育て、収穫したそれを美味しく食べられる事の喜びを知ると、今ではボランティア以外でも自主的に農作業をする王侯貴族達は多い。


 お陰さまで学院の周りはめっちゃ長閑な風景だよ。

 またさ、この辺の土はロアニーって葡萄がよく育つ土地でね、だから一面葡萄畑が広がっている。


 そしてこれに力を思いっきり入れてるのは言わずと知れた母様だよ。


 うん、これのワインが美味しいのなんのって、ワインの味も超一流。

 これだけでもラインフェルトうちの経済は上手くやっていけるんだもんね。


 しかし私はまだ15歳だからロアニーの葡萄ジュースしか飲んではいない。

 でも美味しいのは確かだよ。

 えぐみもなく程良い甘さの口当たりのさっぱりとしたジュース。

 これも私のお気に入りの一つ。

 この土地は年に二回も作物が収穫出来るから今回の葡萄ももう直ぐだ。


「さ、早く勉強しておいでサム」


 私はサムを学院へと背中を押す。


「俺はフェティーと一緒にいたいんだよっ」

「あら、ありがと。私もサムのお母さんとして嬉しいよ」

「フェティーは俺のは、母親なんかじゃないっっ。俺は今まで!!」


 そんな力一杯力説して言わなくたって、ちょっと落ち込む……ってあ、そうかっ。


「うん、そうだね。サムのお母さんはナディレンにいるんだもんね。ごめんごめん。でもさラインフェルトここにいる間は私の事をお母さんとか家族って思っていいからね」


 うんうんそうだよサム、遠慮なんかいらないからね。


「ち、違うっ、フェティー俺は、フェティーの家族なんかじゃなく1人の女――――ぐふぇっ、あ゛あ゛っっ――――……!!」

「ちょ、トリシャ一体どうしたのっ!?」


 トリシャが何故か再びサムの鳩尾へさらに強く、そこは傍目でもしっかりとわかってしまう程の肘鉄を食らわしていた。

 その結果サムは二つ折れになって地面で蹲ったまま呻いている。


 かなり痛そうだ。


 トリシャはそのままサムの胸座を掴みそして何かを耳元で囁いてるようだ。

 私……雰囲気的に傍へ寄れないって言うかううん、絶対にと私の本能が叫んでいるっっ!!


「失礼、我が主へ不適切な言動とお見受け致しましたので処分させて頂きました。以後、不適切な言動や行動はお慎み頂きます事を今――――伝えましたからね!」


「俺が何時――――ひぃっ!?」


 掴まれた手を放そうともがきながらサムは反論しようとするけれど、トリシャの放つ殺気が半端なかった。

 だって少し離れていた私にまでビンビンと冷気が、殺気が伝わったもん。

 一体トリシャに何をしたサム!!


 サムもその殺気が届いたらしく、ごっくんと唾を呑み込んめばこれ以上何か一言でも言うと即、死が待っていそうだったからなのだろうね。

 首だけコクコクと何回も振り子の玩具の様に頷いている。


 そうして首根っこを子猫の様に掴まれているサムはそのまま学院へと、トリシャの手によって放り込まれた。


 何気に一番恐ろしい私の侍女……だ。

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