かくれみの

針本 ねる

第0話 私は隠れる

 あれから五年も経っているのにもかかわらず、私はまだ水が怖い。溺れるほどの大量の水も雨粒でさえも…。お風呂も食事も、ありもしない何かに怯えながら、震えが止まらないのを我慢しながら過ごしてきた。

 ふとバスからの風景を見やる。都会というには質素な、田舎というには

中途半端な町。見知った景色だがどこか遠い国の町にも見える。

「次は高南台ー、高南台ー。お降りのお客様はバスが停車するまでお待ちください。」

 車内アナウンスと共に私は財布から220円を取り出す。次のバス停で下車した私は、送付されたはがきを頼りに歩みだす。今時メールでもよかろうに、わざわざはがきで送ってくるところが余計に腹が立つ。

 帰郷であるというのに微塵も期待を持ちえない。こんなにも私は偏屈な性格だっただろうか。なんだか自分がこれからすることを思うと、急に笑いがこみあげてくる。だがしかし、今は自分を律しよう。いまからするのは、同級生への復讐なのだから。

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る