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 広い広い前庭を通り過ぎ、鬱蒼とした森を抜けて門にたどり着くと一台の車。軍から払い下げられたと思しき十八式小型乗用車。

 その傍らには懐かしい二人が作業服姿で立っていた。

 一人はカク教授、当然もう一人はオウオミ先生。

 先生は「もうお別れはすませた?」となぜか縁起の悪い物言い。カク教授は「お酒の匂いがするね、お酒の、帰りの運転はまた私か」と、また小言。

「お二人とも、本当に会社を始められたんですね」と聞くと。

「不敬罪での起訴は免れたが、大学はしっかり追い出された」と教授「あんな破廉恥上司がいる会社なんて、こっちから願い下げよ」と先生。

 カク教授が運転席に乗り込み発動機を掛ける。年代物の使い古しだけどいい音をして動き出す。


「ところで、シィーラちゃんも軍隊クビになったんでしょ?だったらうちに来ない?ホラ二人とも学者肌だから経営とかには向かないのよ、ねぇ社長になってよ」


 と、助手席に陣取ったオウオミ先生が振り返り言う。あのクビじゃないんですけど。依願退役なんですけど。


「今のところの展望は実に明るいよ展望は、なんせ潤沢な資金をもつ新領総軍特務機関がお得先だからね、基本仕事は途切れることは無いだろうが、ここに特務をクビに成った君が社長と成ればわが社は盤石だよ盤石」


 そう、舵輪ハンドルをキッチリ十時十分で握りつつ、額に冷や汗を掻き掻き運転するカク教授。あの、クビと違いますから、依願退役なんですから。

 とはいえ、目下無職である事は間違いない。


「わかりました。社長の仕事、微力ながらお引き受けしましょう。よろしくお願いします」


 私がそう答えるとオウオミ先生。


「ヨッシ!ところで今一応登記上は社長はカク元教授で社名は『拓洋光学』なんだけど、この際社長も変わるんだし社名も変えない?」

「いいね、変えよう変えよう。新社長、何言い名前は無いですか?言い名前は?」 


 そうカク元教授に問われてすぐに思いついたのが『禿鷹』。

 でも、流石に『ハゲワシ光学』ってのは、チョット、ねぇ。


「『クンツゥル光学』これで行きましょ」と私。

「『クンツゥル』?どこの言葉なの?」とオウオミ先生。

「臨南州北部当たりに住んでる原住民の言葉っぽいね」とカク元教授。


「さすがカク元教授、博識ですね。そうですイェルオルコ族の言葉で神聖な鳥という意味です」


「鳥の名前か、良いじゃない。写真機や望遠鏡を作る会社にぴったりね『クンツゥル光学』これで行きましょ」


 オウオミ先生が嬉しそうに言うとカク元教授は「ちょっと言いにくいが、まぁ印象には残るかもしれんね印象には」

 ヨシ、これで私の次の冒険の目標が決まった。

『クンツゥル光学』を全球一の光学機器企業にする事だ。

 ・・・・・・。ハゲワシって意味だと、ばれない間は黙っておこう。


第二部 完 

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