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十三日。この日は一日中天幕の外から出る事は出来なかった。なんせ物凄い吹雪で顔すら出せない。もし岩陰でなかったら私たち全員天幕ごと吹っ飛ばされるだろう。
仕方がないのでふて寝を決め込むが、空気が薄いせいで眠りが浅く満足に眠れない。夜になっても変な夢ばかり見て途中で目覚める。それの繰り返し。
あと問題は用を足す事だ。私がしたいときはシスルが陰に成り、彼女がしたいときは私が陰に、という風にお互いを隠しあい、男性陣は背中を向ける中、それ用に取って置いた空き缶の中に用を足す。
しばらく置いておくとシャリシャリに固まるのでそれを腕だけ出して天幕の外に捨てる。何回か繰り返すとちょっと色のついた氷の山がいくつかできる。
この辺りの氷はやがて西側の斜面に押し出され、何百年もかけてチュルクバンバ大氷原に合流するとの事。私たちのオシッコもやがてあの広大な大氷原の一部に成るのだ。
十四日の一時頃。またピニタの夢をみて目が覚めて、その後風が止んだのを知り天幕の外に頭を出してみたら星空に成っていたので当日の晴天を期待してまた寝袋にもどる。
そして目が覚めれば、天幕の薄い布地を通して夜明けの薄明りが見えたので慌てて外に出ると、少佐はすでに起きて外に出ていて、稜線を輝かせ始めたインティワシ連峰を眺めながら。「沈滞は終了だ。さぁ!今日もネジ巻いていくぜ」と、背後の私に向かって言う。
私も勢いよく「ハイ!」と答えたもののいきなり強烈な頭痛が遅いその場にしゃがみ込んでしまった。
日の出前に天幕を畳みスーパイプカラ目指し出発。
天候は良好で調子よく進めるかと思ったけど、昨日降った雪が以前に降った物に被さり稜線に深く深く積もり、私たちの行く手を阻んできた。
流石の少佐も体力が持たず先陣を一人で務めるのは難しくなり、インティキルの人たち任せる事に、小柄で体重の少ない私やシスル、ラチャコ君は悲しいかなこういう時には役に立たない。
ただ、ラチャコ君の場合、その小柄な体と抜群の瞬発力、そしてネコ科動物その物な平衡感覚で足場の悪い個所の進路工作に大活躍。
少佐から預かった登攀道具を肩から掛け、安全帯に着けた命綱一本だけで雪に覆われた氷壁を自慢の鋭い爪を効かせながら横ばいし、
どうしても爪が効かない様な場所にくれば、全身をバネの様にしなら爪が効きそうな所までせ横跳びし、進路を作る。
正に離れ業、流石の少佐の舌を巻き「恐れ入ったぜ魂消たぜ」とつぶやくが、シスルは冷静にラチャコ君の動きを観察して「あれなら
いや、ちょっと、アンタには爪が無いでしょ?
私たちが無事通過し終えた後、待っていた彼は得意げに「次もこんなところに出くわしたらまた飛んでやるよ」と得意げに
その宣言通り、また斜面横断を強いられる個所が現れラチャコ君は必殺技を披露。おかげでここも無事通過できたが、今度は我々を待つ彼の顔がさえない。おまけにしきりに右足をぶらぶらせている。
少佐が調子を聞くと恥ずかし気に彼は「右足をちょっと挫いた。爪も折れちゃった」と告白。
歩くには支障は無いけど、あの技は繰り出せそうにない。もう危険な斜面横断が現れないことを祈るしかない。
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