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カク教授とオウオミ先生は次なる課題、対候性と堅牢性の向上、そして定量化に取り掛かった。
そして私は開発全体の調整に追われつつ電源問題と格闘する。
このころ私が気になっていたのはこれを使う場所は何処なのか?という点だった。
少将閣下から出された開発条件を見る限り、極端に寒くて人間が歩いて持ち運ぶしかない場所と言う事は解るが、そんな場所とはどこだろうか?
自室の窓から岩の灰色と残雪の白で彩られたインティワシ連峰の眺望を眺めつつ考える。
机の上には試験に使う冷凍室の建設費支払い伝票が乗っかっていた。
零下三十度まで冷やすことのできる特製の冷凍室のお値段は、私が今まで見たことも無い様な数の零が並んでいる。ホント、特務はお金持ちだ。
金額を再度確認し、署名をしようと伝票を見て、何か頭にひらめいてまた窓の外の峰々の連なりを見る。
ちょうど真正面には連峰の盟主、標高七五五二
人の脚でしか行けない、極寒の世界・・・・・・。
部屋を飛び出しノワル曹長を探す、ちょうど研究施設の中庭で例の冷凍室の試験運転に立ち会っている所を捕まえた。
私はそこからも見えるインティワシの頂を指さして「あそこって、どんな場所なの?」
「あそこってインティワシの事ですか?」と聞き返してきた後、私が頷くのを見ると。
「ハッキリ言って風の地獄ですよ。大尉殿もご記憶があるかもしれませんが、先の大戦中総軍司令部の測量隊が初登頂に成功したあと遭難して十名ほどが亡くなった事件があったでしょ?あれは山頂付近で四六時中吹き荒れてる暴風にやられたんです。連峰の向こう側にあるチュルクバンバ氷原で冷やされた空気が太陽熱で温められた上空の空気を押し上げて上昇気流になって、山頂や稜線を駆け抜けるんですが、平均でも風速二十
と、本当に身震いさせ総身の毛を逆立てながら話してくれた。
人間が歩いていくことしかできない零下三十度の場所。そう、それはあのインティワシの山頂の様な世界だ。そしてそこは常に立っていられない様な突風が吹く世界。
その日の夜。開発の進捗状況を報告するためトガベ少将と電話で話す機会が有った。
今日までの進捗状況を一通り報告すると、閣下はあの冴え冴えとした声で。
「予想をはるかに超える順調さだな。どうも私の人選は間違って居なかった様だ。あとは電源の問題か?」
電源の話になったところで、私は抱えていた言葉を閣下に投げてみた。
「はい、ところで閣下、あれを使う場所とはひょっとして高い山の上なんじゃないですか?標高七千メートルを超える様な、たとえばこの近くにあるインティワシ山の様な」
愉快気な笑い声がしばらく続き。
「君は指揮官としても優秀だが、
「自分の方も今のところハッキリ申し上げられませんが、閣下のお答えで道が開けそうです。有難うございます」
「フン、秘密には秘密で応じるか。面白い、次もまたいい話を聞かせてくれ、期待している」
翌々日、私はカク教授とオウオミ先生を集めて言った。
「電源の問題ですが、電気を持っていくことは一旦あきらめましょう。その代り現場で作るというのはどいうでしょうか?」
二人とも驚いて(あるいは呆れてか)何も言えない。私は続ける。
「少将閣下から言質を得たのですが、今回この装置を使用する場所はあのインティワシ山の様な標高七千
「あきれてものが言えませんねものが」とカク教授。
「そんな突風に耐えられ、なおかつ人力でそんな所まで運べる風力発電機なんで出来ると本気で思ってるんですか?」
私は一枚の書類を二人の前に提示した。
「これは海軍が遠隔地の無人灯台の電源として開発した風力発電機です。御覧の通り筒状の胴体の中に羽を収め効率よく風を捕まえなおかつ突風にも十分耐えられます。この形式の発電機で大きさは直径五百
「持っていけないなら現場で作れば良いじゃない、か、発想の転換ね、シィーラちゃん。ねぇカク教授、面白そうじゃ無いですか」
そう言うオウオミ先生。
カク教授はしばらく黙り込んでいたが。不意に口を開けると。
「大尉、早急に現物を入手してください。出ないと軽量化が出来るかどうかわからない。今すぐですよ今すぐ」
ついに電源問題にも突破口が見えて来た。
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