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冷凍室を使っての撮影実験は大方の予想通り失敗の連続だった。極寒の世界は人間にとっても過酷だが精密電子機器にとっても過酷なのだ。
最初は電子回路がイカれ、それが解決すると今度は
何か解決すればまた問題が起き、それを潰してもまた何か湧いてくる。これの繰り返しがひたすら続く。
いい加減うんざりしていたころ、カク教授が得意げな顔で私を研究施設の庭に呼び出した。
「出来ましたよ、超小型高出力風力発電機。まずは物を見てください物を」
庭には木製の台に据え付けられた一抱えほどある長さ七百
素材を訪ねようと教授を振り返ると、ふんぞり返って小鼻を広げ。
「何で出来てるか解らんでしょ?それもそのはず、これは硝子の繊維を化学樹脂で固めた全く新しい素材でしてね。海軍が木材に代わる小型舟艇の材料として開発していたモノですよ。そいつを応用したんです。風洞部分も中の羽も発電機構以外は殆どこの新素材で出来てます。担いでごらんなさい」
言われるままに持ちあげてみると、拍子抜けするほど軽い。
「スゴイ、すごいですよカク教授!これで電源問題は大躍進です」私が褒めちぎると教授は。
「あのですね、門外漢の貴方が私ら専門家相手に奮闘してるのを見せつけられてましたらね、こっちまで頑張らなきゃ、負けちゃおれんという気になるわけですよ負けちゃおれんとね」
思わず深々と頭を下げる。本当に頭が下がる思いとはこのことだ。
「まぁ、頭を上げてください大尉。肝心かなめの撮影機がまだ出来てないじゃ無いですか、それにコイツの耐久試験もしなきゃならない、道半ばですよ道半ば」
外の騒ぎを聞きつけて来たのか、防寒着で着ぶくれするだけ着ぶくれしたオウオミ先生が、冷凍室から眉毛を凍らせフラフラになって出て来た。
そして、あの超小型高出力風力発電機をぼーっと眺めたあと、風洞部分をピシャピシャと叩き「ねぇ、これ、何で出来てるの?」
私が「カク教授が探し出して来た、硝子繊維と化学樹脂で出来た新素材です」と答える。
すると、半分死にかけていた先生の目が輝きだし、私に駆け寄り防寒服のまま抱き着いてくると。
「これで撮影機の寒さ対策も何とかなるかも、シィーラちゃん。やれるよ、コレ!」
皇紀八三六年植月(五月)二十日。新素材で作られた撮影機が冷凍室に据え付けられた。本体、鏡筒、三脚まで新素材で作られ、導線も化学護謨と硝子繊維を組み合わせた被膜で守られている。
防寒着でモコモコに着ぶくれした私が被写体にとして冷凍室に入り、撮影者としてオウオミ先生もぶ厚い扉を潜った。
庫内はすでに零下二十度。息を吸うたびに肺が痛み手足の感覚が怪しくなってくる。視界の周りが白いのは、まつげに自分の息から出た氷がへばりついたからだ。
「それじゃ、撮影開始、電源入れるよ。この前はここで
オウオミ先生が私に撮影機の鏡筒を向けた。焦点を合わすため鏡筒の周りに着けたつまみを調節する。
先生がつぶやいた。
「すごい、映ってる。本体の
受話器を取って冷凍室外を呼び出す。出たのはカク教授、私は寒さと不安のせいで口ごもりながら「シャルマ、です。う、映ってますか?」
「何の問題も無い、今は君の背中が映ってる。さっきは鼻水を凍らせた君だったがね鼻水を」
そして、明らかに声を上ずらせ教授は続けた「成功だ、寒さは克服された」
その後、送信機構も新素材で作られ耐寒試験も合格しこれで撮影機、送信機、それらに電源を供給する発電機もすべてそろった。
ここから本格的な現場での耐久試験が始まる。
雨月に入り、この辺りに本格的な冬が訪れると、施設を警備している部隊から山岳戦の経験がある者が選抜され、ノワル曹長を隊長とする試験撮影隊が編成された。
彼らの目的は本番で使用される環境に限りなく近い自然環境に持ちだし、実地で撮影、送信を行い問題点を洗い直す事。
本来ならインティワシ山を試験場にしたいところだが、そこまで人間が登れる装備も準備も整ってなかったので、軍の装備品で登れる山で試験するしか無かった。
と言っても冬に成れば標高三千
実地試験が始まると、予想どりの問題がいくつも見つかった。
まずは重さ、新素材にしたとは言えどれも二十
可能な限り機材を軽量化を目指すことにした。先ずは陸軍が使う軽機関銃の十五
その他、設置や操作の簡便性、各機器の堅牢性などが試され幾度となく改良が加えられ続けた。
そして。
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