第6話 革命集団の襲来

 2020年10月9日金曜日。

 博多駅の地下に存在する修練場で、猛特訓を行っていた青桐あおぎり達。 

 様子を見守る井上いのうえ監督は、同じく様子を見守っている飛鳥あすかの横で、明日に行われる大会への出場者を選んでいる最中だった。


「……」


「おや? 井上さん、どうしたんだい眉間に皺を寄せて」


「ああ、その……明日の大会に誰を出そうか悩んでまして」


「明日……なにかあったけ……?」


「福岡県が独自に開催する大会があるのですが……試合形式は団体戦で1組のみ、人数は3人しか出せないんですよ」


「3人? ……随分小規模ちゃっちい大会だねぇ」


「まあ、最近出来たばかりで認知度ネームバリューもそれ程って感じですね」


「なるほどねぇ……それで誰を出すんだい?」


「来年のレギュラー候補が5人いるのですが……その内の3人ですかね」


「だれだれ? 僕にも教えて欲しいなぁ」


「1人目は青桐龍夜あおぎりりゅうや、青藍色の髪をしている彼です。全体的にツンツンヘアーで髪を後ろで束ねてる……」


「ああ、あの子ね。知ってる知ってる。凄いパない気迫で練習してるよね。ちょっと恐怖ビビるくらいだよ」


「2人目が石山鉄平いしやまてっぺい、坊主頭で体のデカい彼です」


「あの気弱シャイな子ね。直ぐに音を上げるかと思ったんだけど……なかなか根性ガッツあるよね」


「ええ。ただ、優しい性格上、競技には向いていないんですよね……」


「なるほどねぇ……ただそういうタイプって、何かの拍子に化けるから、指導のしがいがあるよ」


「3人目は……ああいた、あの江戸紫色のオールバックの……」


「片眼鏡をしている子だよね。今時珍しいレアだね、頭も良いし……話し方は独特ユニークだけど」


「4人目が、猩々緋色のイガグリヘアの木場燈牙きばとうが、ウチの副主将です。5人目は主将あたま花染司はなぞめつかさで、右目に眼帯を付けている千草色の髪のやつです」


「なるほどねぇ……そうかそうか。迷っちゃうね、どうしようか」


「こっちとしては、経験ばかずませたいんですよね……そうなると1年生ちゅーぼうあがりの3人かな……」


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 2020年10月10日土曜日。

 大濠公園内に造られた移動式の試合会場。

 周囲には本日の大会に向けて体を仕上げて来た選手たちが、自分の出番を今か今かと待ち続けている。

 そんな会場の観客席に、蒼海そうかいの試合なら何処へでも飛んでくる2人の人物が、右手にジュースを持ちながら観戦していた。


青山あおやまのおっちゃんっ!! 青桐お兄ちゃんの試合っていつからだっけ!?」


「あ~? ……もうそろそろじゃねぇか?」


「……あ、おっちゃん、思い出したんだけどさ」


「あん?」


「この前さ、属性がどうとかって言ってたよね? その解説、まだ僕聞いてないんだけど!?」


「あ~……そんなこと言ってたね……よく覚えてやがったな。んじゃ、暇潰しにちょっと話すか?」


切望よろっ!!」


「えっとだ。昔の柔道家達が柔道を広く普及させようと、選手達の戦い方をある程度カテゴリー分けしたんだよな。炎、山、氷、風、雷、水の6属性にな」


「ほ~……」


「……んでよ、1個1個説明していくとだ……攻撃的な柔道を行う炎属性、守備的な柔道を行う山属性、相手を弱体化させながら戦う氷属性、出し抜く戦いをする風属性、速さで翻弄する雷属性、技の連撃で圧倒する水属性の6つだな」


「6つもあるんだね」


「そうだな……それとだ、柔皇の技もそれに対応していてなぁ~しか使えないんだ。水属性の選手なら水属性の技か無属性の技の2種類ってな具合よ」


「えぇ……制限しばりあるの?」


「無限に練習できるならまだしも、練習時間は限られてるんだぜ? 才能センスあるやつならアレコレ覚えることが出来るかもしれねぇけど、学生ガキの限られた時間なら、6属性の2つと無属性の合計3種類が限度だな」


「なるほどー……」


講道館の技ふつうのわざと取捨選択した柔皇の技ぶっとんだわざを駆使して相手を崩し、投げ飛ばす。その駆け引きが柔道の醍醐味よ。ほれほれ」


「ん? ああ!! 青桐お兄ちゃんだ!!」


 青山龍一あおやまりゅういちが開いた青空教室で予習した内容。

 それが今実演されようとしている。

 蒼海の先鋒を務める青桐。

 小内狩りや大内刈り、柔皇の技である八雲刈やくもがりや露払つゆばらいと言った足技を途切れなく繰り出し続けることで、相手の反撃を許すことなく圧倒し続けている。

 防戦一方の敵は、猛攻に耐え切れず大きく体勢を崩す。

 そのチャンスを見るや否や、体を回転させ相手を背負い、畳の上へと投げつけていく。


「お"ら"ぁ"!!」


 激流の如き姿はまさに水属性の戦いを体現していた。

 勝利を告げられると試合会場から退く青桐。

 続く試合は、チームメイトの石山が出場するようだ。

 彼も青桐と同じように技の連撃を行うかと思えば、相手の技を受け止める山属性の戦いを繰り広げていく。

 敵の背負い投げを真正面から受け止めるため、左足を地面にめり込ませる石山。

 船のアンカーのようにその場に留まるための技。

 No.8―――


楔足くさびあし……っ!! うぉ"ぉ"ぉ"ぉ"反撃ばいっ!!」


 その巨体で相手の攻撃を体の前面で受け止めた石山。

 再び相手と正対すると、右手で奥襟を掴み、相手の左足の内側を石山の右足が払い上げる。

 バランスを取るためケンケンしながら踏ん張っている敵。

 右足でスケートのように円を描きながら石山の技に耐える敵であったが、ゆっくりと体を引っ剝がされると、地面に叩きつけられ、地鳴りのような衝撃が周囲へと伝わっていく。

 青桐と同じように華麗な一本勝ちを収めた石山。

 会場の観客達は、大いに盛り上がっていく。


「良いぞ石山っ!! その調子だっ!!」


「……次は俺の出番ですね、井上監督」


「ああ、しっかりな伊集院」


了解うっす


 石山と交代するように場内へと進む伊集院。

 闘争心剥き出しの相手とは違って、伊集院の心は氷のように冷たい。


開始はじめっ!!」


「しゃぁぁっぁ!!」


「9割9分9厘」


「……?」


「お前が一歩も動けず一本負けくたばる確率だ」


「……っ!?」


 試合が始まると同時に伊集院の右足が畳を強く踏みめる。

 するとそこから、氷の結晶がいくつも生み出され、畳を伝わって相手の両足を氷漬けにし、その場に拘束する。

 No.5―――

 

白踏みしらふみ―――」


 身動きを止められた相手選手。

 氷に囚われた自分の両足を力ずくで引き剝がすも、脱出した時には、既に伊集院の技が始動に入っていた。

 草を刈るように敵の右足の内側を刈り取る伊集院の右足。

 ノーガードで技を受けることになった敵にとって、ただの小内刈りは、今この瞬間だけは必殺の一撃となっていた。

 冷厳とした決着となり、苦戦する様子もなく3タテしていった青桐達。

 飛鳥の下で特訓をおこなっている彼らにとっては、当然の結果とも言える。


「よくやったぞお前ら!! このまま決勝に臨む。次の試合も先鋒は青桐だ、いいな?」


「はい分かりました……アレ? カナちゃんは?」


「ああ、五十嵐いがらしは次の試合の偵察に行ってるよ。なにせ決勝だからな……用心しておくに越したことは……」


「ややや大変やばいですよ皆さんっ!! あの、アレっ!! うぅっゲホゲホゲホっ!? 咽た、ちょっと休憩タイムですっ!!」


 決勝の相手の情報を探るため、偵察に向かっていたマネージャーの五十嵐いがらしカナ。

 蜜柑のように明るい髪に少しせっかちな対応も相まって、非常に煩い印象を感じるも、得意のデータ分析を生かしたサポートで、チームを支える青桐の同級生である彼女。

 そんな彼女が仕事から戻って来たのだが、いつもより少し様子がおかしい。

 尋常ではない狼狽え方をしている彼女に、何が起こったのかを青桐は問う。


「カナちゃん、何があったん……」


「ヤツらが出ましたっ!!」


「え? 誰が?」


「アレですよ、アレっ!! の……リヴォルツィオーネですっ!!」

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