ファンタジー柔道『ヤワラミチ』
@komadaaaaaaa
青桐龍夜編
第1話 キミに捧げる誓いの言葉
「
「しゃぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
「こぉ"ぉ"ぉ"ぉ"い!!
熱気が最高潮を迎えようとしている日本武道館で、1人の少年が2階の客席から目を輝かせている。
叔父に連れられてやって来た少年は、息をするのを忘れる程、熱中して観戦しているのだった。
「
「
「
「
「そうそう!!
「……
「違うもん!! すっげぇ~熱心なファンだもん!! サインだって貰ってんだぞ!!」
「んー……」
「ん~? ……あぁ!? もう始まってんじゃん!! おっちゃんのバカっ!!」
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「やぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
「一本ッッッ!!」
背を相手に向け、左手である引き手一本で投げ飛ばす豪快な技。
得意の一本背負いで相手を投げ飛ばし、敵を畳に叩きつける青髪の青年。
彼に下された判定は、疑問の余地が入り込むことのない一本勝ち。
歓声が沸く中、一礼し場外へと進む彼を、監督と仲間達が出迎える。
「青桐!! 良い試合運びだったぞ」
「
「こら龍夜っ!! 勝った時くらい愛想よくしなさいよっ!! 仏頂面過ぎんのよっ!!」
「
「お~お~お熱いねぇ~御二人さんよぉ!!
「ふっ……そう言うな。風も喜んでいるぞ」
「……
渋い顔をしながら苦笑いする青桐。
高校に入学して即座に団体戦のレギュラーを掴み取った期待の新人を、1つ上の先輩でもある
「……木場、花染!! 次はお前達だ。集中していけよ」
「
「風の期待に応えよう」
先鋒の青桐に続く次鋒の木場と中堅の花染。
2人の頼れる背中と会場全体を見渡す青桐。
始めてのインターハイに心を躍らせていた彼は、自分の役割を終えると、冷めやらぬ会場の熱気を全身に浴びていたのだった。
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全ての日程が滞りなく終わり、飛行機で帰省した青桐たち蒼海大学高等学院の面々。
博多空港のロビーで手短に挨拶を済ませると、現地解散となった。
空港から歩いて十数分の場所に住んでいる青桐は、徒歩で帰路に就く。
電車移動の夏川も一緒について来ており、ちょっとした試合の反省会が行われていた。
「やっぱさ、あそこで小内刈りしたのが悪かったのよ、相手に読まれてたわよ?」
「だろうなぁー……ちょっと攻め方が
「も~……しっかりしなさいよ。「青龍」って呼ばれるくらい将来を期待されてんだから」
「分かってるよ。しっかし……
「そうねぇ……アレを超えないと
「……」
「え?
「いや、そうじゃねぇけど……勝てるかどうかわっかんねぇな~って」
「あのさー……ほらっ!!」
「いった!? 何で背中叩いてんだよ!?」
「
「はいはい元気出た」
「よろしい……ねえ、柔道楽しい?」
「ん? 何だよ急に」
「いや、赤神さんに
「なるわけねぇだろ……俺そんなに
「どうかしら……気持ちの切り替え下手じゃない、アンタ。ちょっとは肩の力抜きなさいよね」
「へいへ~い」
「あ……龍夜、先渡ってて。ちょっとハンカチ落としちゃった」
「……? おう、先行ってるぞ」
ダラダラと話をしながら歩を進めていた2人。
ちょうど歩行者用信号機が青になり、横断歩道を渡っていた時だ。
普段愛用している白いハンカチを地面に落としてしまい、慌てて拾いにいく夏川。
そんな彼女の目にある光景が映りこんできた。
様子のおかしい10tトラックが、信号機が赤信号にも関わらずコチラへと突っ込んできている。
運転手は懸命にブレーキを踏んでいるようだったが、車を制御できずにいる。
よく見れば、トラックの前輪が両方ともパンクしており、鋭く鋭利な金属の塊がタイヤに刺さっていた。
青桐はこの異変に気が付いていない。
「ちょ、龍夜、危ないっ!!」
「え……っ!? ……鈴音っ!? 鈴音っ!!」
夏川に突き飛ばされ、道路脇の歩道に尻をつく青桐。
直後にぐちゃりと背筋が凍る音を立てて、夏川が地面へと受け身も取れずに落下した。
彼女が手に持っていた白いハンカチは、鮮血で赤く染め上がっていく。
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救急車で博多の中央病院へと搬送された夏川。
同行していた青桐は、手術室手前の待機所で、オペが終わるのをただじっと待っていた。
そばには駆けつけた夏川の両親も座っており、口を開く気配を見せない。
長い長い時間が過ぎた。
衣服を着替えてコチラに向かって来た執刀医。
彼は重苦しい表情のまま青桐たちに向かって話し始めた。
「
「……っ!! 先生っ!! なつ、鈴音はどうなったんですかっ!?」
「一命は取り留めました。ただ……」
言葉で伝えるよりも実際に見せた方が早い。
そう考えた執刀医は、青桐たちを夏川の元へ連れて行く。
「
「ちょっと、どういうこと、
「お母さん、落ち着いて!! 頼むから……!!」
「彼女のご両親ですか? お話があるので少し良いですか」
執刀医に連れられて小部屋を出ていく夏川の両親。
今この場所には、呆然と立ち尽くす青桐と、人工呼吸器を取り付けられ深い眠りにつく夏川の2人しかいない。
何かの間違いであって欲しい。
悪い夢であって欲しい。
顔を背けたくなる無情で残酷な現実が、青桐の目の前に叩きつけられる。
「……い、いつまで寝てんだよ」
「……」
「早く帰ろうぜ……明日、練習があるんだからさ。寝坊したら怒られるぞ?」
「……」
「冗談よしてくれよ……俺、怒るぞ……? 頼むからさ」
「……」
「おい……くそ……!! 俺が……周囲に気を配っていれば……!! ほんと……ぐっ、ふざ、けんなよ……」
「……」
病室の床へと泣き崩れる青桐。
抗う事の出来ない運命は、彼を絶望の底へと追いやる。
彼女とは恋人の関係のまま数年近く共に過ごしてきた。
いるのが当たり前だった存在が、ある日を境にいなくなった。
高校1年生の彼にとってそれは、自殺を考えてもおかしくない程の出来事である。
咽び泣く彼は、彼女と過ごした過去の日々を思い出す。
共に笑い、涙した、あの日々を―――
『全国大会で
「……っ!!」
(……鈴音との
真っ赤になった目を擦り、しわくちゃな顔のまま笑う青桐。
彼は誓い、奮い立つ。
最愛の人との約束を果たすため―――
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