フットサル――VSチーム夢向川戦0
チーム同示ヶ丘―――Pivo=鮫倉 左Ala=夏河 右Ala=寺島 Fixo=雨宮 Gleiro=多来沢
チーム夢向川―――Pivo=舘 左Ala=竜田 右Ala=神田 Fixo=渡利 Gleiro=徳重
一列に整列し、礼と共にそれぞれのポジションへと散らばってゆく。
(ゴレイロはウチがやる)
フォワードへの強い拘りを持つ部のエースストライカーである多来沢が真っ先にそう宣言した時、その場にいる全員が驚いた。その反応に対し、多来沢は口端を片方だけ上げて自身がゴレイロのポジションに着く理由を言った。
(別に大した理由もない、フットサルはボールもゴールもサッカーよりは小さめだ。この中じゃサッカー経験はウチの方が長いし、咄嗟のカバーもしやすいだろう。ま、ゴールキーパーもやったこと無いわけじゃないしな。それに、おまえら、フットサルとはいえ丸々試合ができるチャンスなんだ、気持ち上げてけよ。楽しんでいこう。というわけで、この試合のキャプテンは、リアだな)
(ワタシが? ここは年功序列で多来沢先輩の方がいいんじゃ?)
(うん、ウチはキャプテンとかガラじゃないからパスだな。ここは司令塔向きなリアじゃないか。こんなかじゃ頭ひとつ分のサッカー経験値があんのはリアだろう。一応、意見があったら、遠慮なく言ってくみな。お前らも自身があんなら、自分がキャプテンやりますって立候補してもいいぞ?)
(いえっ、リアなら大丈夫ですっ! キャプテンリアにおまかせしますっ!)
(なんかそれ、スポ根漫画かアニメのタイトルみたいだな。あ、あーしもガラじゃないし、多来沢先輩が決めたなら、従いますっ)
(……
(ようしっ、満場一致で決まりだな)
(いえ、勝手に満場一致に決め――)
(――なんだよ、往生際が悪いな。もしかして自信ないのか? ミツコなら、やってく――)
(――やります)
こうして、雨宮は短時間でそれぞれのポジションを決めてみせたのだが、これが適切なのかはプレイしてみなければ正直わからない。なにせ、練習時間も無い、そもそも即席な助っ人として来ているぶっつけ本番だ。うまくいかなくても仕方ないと、気を楽に構えた方がいい。
後ろのフットサルゴールの前で伸びをする多来沢を横目で見つめる。多来沢はポジションに着く前に雨宮達にひとつ忠告をした。
(あとな、あいつら結構やると思うぞ。さっきエマの肩を叩いた時、結構いい感じに筋肉張ってたぞ。あいつらも間違いなくサッカープレイヤーだわ)
その言葉を、思い浮かべながら正面のそれぞれのポジションについた夢向川へと視線を戻し、さり気なく観察をする。
Pivoの舘は、身体付きと雨宮と変わり映えしない身長差からして同じ一年生だろう。亘理達との上下のない遠慮なしなふざけ合いから全員一年生だと予想し、さり気なく短パンから覗く足をみる。その足はなるほど、よく締まった筋肉の付き方をしている。スポーツ学生特有の走り込みを続けた部活鍛えな筋肉だ。試合の始まりが近づくと、夢向川全員の表情が真剣な勝負師の顔になり、鋭く同示ヶ丘サイドを射抜いてくる。間違いない、サッカープレイヤーの眼だ。これは、気を抜くと食われるゲームになるかもしれない。雨宮は腰に手を当て、ゆっくりと息を吐くと、青い瞳に力を込めた。
そして、ホイッスルと共に試合が始まる。
先行――夢向川ボール。
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