西実館中学女子サッカー部

もりくぼの小隊

プロローグ


 ――全国女子サッカー都大会予選


 力強く放たれたシュートが鋭くゴールに突き刺さり、ゴールネットを揺らした。

 6点目のゴール。呆然自失とする女子イレブン達の耳に響く試合終了のホイッスルは遥か遠くに聞こえるようだった。


 この6対0の惨敗戦が都大会予戦敗退を決定づけた。かつて女子サッカーの名門と謳われた「西実館せいじつかん中学女子ちゅうがくじょしサッカー部」の試合結果だった。


 試合は終わった。あとは両校選手達が集合し、相互に健闘を讃える礼と共に本当の意味で、試合終了だ。

 だが、西実館女子の選手がひとり、ピッチから一歩も動かず肩を震わせていた。

赤木あかぎ、集合だよ」

 西実館のキャプテンが選手の名を呼び集合を促すが赤木と呼ばれた選手は動かない。

「赤木! 試合は終わったんだっ!」

 キャプテンの叱咤の声に赤木はビクリと顔をあげて涙でクシャクシャとした顔でキャプテンを見た。キャプテンの顔はどこか自分の中の悔しさを殺し、無念さを受け止めきれていない赤木に無理やりにでも笑みを作って言葉を続けた。

「あんたのせいじゃないだろ赤木。これが、あたし達の実力だったって事。悔しいけど、これが現実だ」

「……キャプテン」

「涙はさ、ピッチを去った後にみんなで一緒に流すんだよ。今は戦った相手の健闘を讃える。これも、あたしらの大好きなサッカー、全ての競技に通ずる大事な、スポーツマンシップの精神だよ?」

「うぅっ、ぐっ……ぅ、はいっ」

 キャプテン達三年生にとって中学サッカー最後の夏。自分以上に悔しいだろうキャプテンのそのまっすぐとした声と想いに促されて赤木は、ようやく足を動かした。

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