第66話 電車の中
「2時間長いかなーって思ってたけど、案外早かったね!!」
「ライブ会場周りのこと調べてたら半分以上時間過ぎてたよね。 体感まじで1時間ぐらいで着いた気がするよ」
外の景色がコロコロ変わり、見慣れた街並みから見たことがない街並みへと変わっていき、あっという間に3つ隣の県へと着いた。
新幹線から降りて最初に目に入ったのは、上の方にある地名が書いてある白い看板。
その看板を見て、社会の勉強などで聞いたことある土地に着いたんだなと思うと、不思議な気持ちになった。
「やっぱり地元と雰囲気とか空気が全然違うね。 周り同じ日本人の人しかいないし、見た目もそうなのになんだか違うところに来たみたい」
「その感覚分かる。 逆に俺たちの地元に来た人もそんな感じするのかな?」
「かもしれないね。 なんだか不思議な感じ」
「俺もそれは感じてた」
俺達は人の流れに着いていく。
すると、少しして電光掲示板が見えた。
電光掲示板には漢字で地名が書かれているが、馴染みがないからなんと読むのかが正確には分からない。
それを見ると改めて俺達は別の県に来たんだと実感した。
「私たちが次乗らないといけない電車はこっちだって!」
「本当だ」
俺達は人の流れの邪魔にならないところに避難して、どうすれば良いのか確認した。
そして、次の電車が間違えてないことを確認することができると、少し早足で電車まで向かう。
エスカレーターを登り終えると、ちょうど遠くからレトロな電車が来ているのが見えた。
「ラッキー」
「あれが乗る電車だよね? なんかレトロで可愛い」
俺達はキャリーケースをコロコロ動かしながら電車へと乗る。
電車の中には人が少なく、上に吊るされている広告や窓の形が地元とは違った。
「なんか楽しいね」
「うん。 知ってる乗り物でもこんなに違いがあると楽しいんだね」
俺達は横に広い座席へと座る。
それだけでちょっとテンションが上がる俺は、まだまだ子どもだなと思った。
「ホテルの最寄り駅まで何分ぐらいだっけ?」
「30分ぐらい。 そこからちょっと歩いたら着くよ」
「りょうかーい」
「ふぁぁぁ……」
俺が返事を返すと、灯が口元を隠しながら欠伸をする。
目尻には少し涙が溜まっていた。
「眠たいなら寝てていいよ。 着きそうになったら起こすから」
「でも……」
「これから楽しいことがいっぱいあるんだからさ、体力は回復できる時にした方が良いよ」
「…………ん、ならそうする」
「ほら、俺の肩に頭預けても良いよ。 その方が楽じゃない?」
「でも泉痛くない?」
「全然大丈夫! 灯ぐらいの軽さなら痛くも痒くもないよ」
俺は平常心を心掛ける。
でも、少し大胆な誘いをしたからか、心臓はいつもより鼓動が早かった。
「なら遠慮なくそうさせてもらうね…………ありがと」
灯がゆっくりと、頭を俺の肩に乗せる。
少しの重たさと灯の温かさがきてドギマギした。
「あったかい……」
灯がボソっと呟く。
その呟きを聞いてなんともむず痒い気持ちになった。
「すぅ……すぅ……」
少しすると灯から寝息が聞こえ、肩に感じる重たさが少し増えた。
俺からは灯の綺麗な黒髪しか見えないけど、きっと寝たんだろうな。
「(……おやすみ、灯)」
俺は灯に心の中で言うと、外の景色を眺める。
窓に反射した俺の顔は頬が緩み、なんともだらしない顔になっていた。
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