第57話 ✳︎好きな人から遊びに誘われました

「あぁ……平和だ……」


 私は自室のベットの上でゴロゴロ転がる。


 体育祭が終わった振替休日の日。


 私は特に予定がないから家で暇を持て余していた。


 お母さんは買い物、お父さんはお仕事、お姉ちゃんは大学に行っていて、今家には私しかいない。


「(あ〜……暇だ。 なにか、なにかすることないかな?)」


 私は首だけを動かして周りを見渡す。


 でも、私の視界に映るのはいつもと変わらない自室だった。


「(動画は見飽きちゃった。 テレビは……気分じゃない。 なら、雑誌でも読む? まだ読んでない雑誌あるもんね)」


 私はゆっくり起き上がって本棚まで歩く。


 そして、雑誌を手に取ってベットにダイブした。


 そこから私は音楽を聴きながら雑誌を読んでいく。


 でも、その時間は長く続かなかった。


「(……集中できない)」


 私は雑誌を閉じてその辺にパサッと投げる。


 いつもは折り目がつかないかとか気にするけど、今はそれどころじゃなかった。


「(う〜ん……モヤモヤする。 あの光景が目から離れないよ……)」


 瞼を閉じると思い出されるのは体育祭での借り物競走。


 私の隣にいたななちんが泉に引っ張られていく。


 あの光景が、ずっと頭にチラチラと残っていた。


「(せっかくの休みなのに、落ち着かない。 気分変えようにも変わらないよ……泉、今頃何してるんだろう?)」


 気になるなら連絡すれば良いのに。


 そんな考えが頭に何度もよぎるけど、文字を打ち始めて消すの繰り返し。


 私は前に進めず、ただモヤモヤとしているだけだった。


「……あ"あ"ーーーー! もう! こうなりゃやけ食いだぁ!!」


 もう! もうなんか食べてやる!!


 お姉ちゃんの秘蔵のお菓子とかも食べてやる!


 怒られたらその時よーーー!!


 私は反動を思いっきりつけてベットから立ち上がり、リビングへと向かおうとした。


 そんな私の耳に届いたのは1つの着信音。


 振り返ってみるとスマホの画面に、連絡が来たことを知らせるメッセージが表示されていた。


 そこに表示されている名前は『高山 泉』。


「!! えっ! 嘘っ!? なになになに!?」


 私は大慌てでスマホを取る。


 急ぎすぎてスマホを落としそうになったけど、そんなのは全然気にならなかった。


『灯。 今連絡大丈夫?』


『全然大丈夫!!』


 ……あ、すぐに返信しちゃった。 大丈夫かな? 返信早すぎて引かれてないかな!?


『それなら良かった。 急なんだけど灯に1つ提案があって、良かったら今度の休み、一緒に遊ばない?』


 その文章を見た瞬間、私の中にあったモヤモヤは吹っ飛び、喜びと戸惑いの気持ちが強くなった。


 やった! 泉から遊びに誘われた! これってデートだよね!! えっ!? でも何で誘ってくれたんだろ?


 いや、遊びに誘うぐらいは普通のこと??


 私はなにがなんだか分からなくなったけど、『泉がデートに誘ってくれた』。


 その事実にたまらなく嬉しい気持ちになった。


『良いよ! 楽しみだな〜!! どこに行くとかもう決めてる感じ?』


『えっとねーーーーーーーー』


 私はウキウキでスマホを持って画面を見つめる。


 嬉しすぎてやけ食いをするという思いは消え、私は上機嫌で鼻歌を歌うのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る