第38話 プール②

「まずはここ! 巨大な波がランダムでくる、波ゾーンが楽しいんだ!」


「へぇー……どんぐらいの波が……って、お、おぉぉぉぉおぉ!?」


 俺たちの目の前で波が大きくなり始め、水が盛大に揺れる。


 少し離れている俺たちのところまで水飛沫が飛んできたことから、結構な波の高さだったことを物語っていた。


「予想以上に波高いね……でも、楽しそう!」


「あれでもまだMAXの高さじゃないんだぜ?」


「まじ!? それは期待しちゃうね!」


 俺たちはゆっくりプールに入る。


 塩素の匂いに懐かしさを感じた瞬間、身体全体に冷たい水の感触が一気に駆け回った。


「あぁー! 冷たくて気持ちいい!!」


「さっきまで灼熱だったからねぇ。 余計に冷たく感じるよ」


「それなー」


 俺は浮き輪に座っている灯を泳ぎながら前へと押す。


 押していると灯は速ーい!、揺れるー!など言いながら、楽しそうに笑っていた。


 周りを見ると大人たちがそれぞれ楽しそうに遊んでいる。


 ここ、身長や年齢制限とかがあるから、子どもの頃は憧れの場所だったんだよなぁ。


 それが今では好きな人と一緒に楽しく遊んでいる。


 あの頃の俺に言いたい。 未来の俺、青春しているぞ!って。


「うわっ! 泉波がくる、きたよ!!」


「え、まじずぇー!?」


「あははっ! 泉モロに顔に水被ってやんのー! おもしろ〜!!」


 水を被って喋れなくなったことがツボに入ったのか、浮き輪の上で灯が腹を抱えて笑っていた。


 その姿を見て、少しイラっとくるものがあったから、俺は灯の脇腹を擽る。


 すると、灯は大きな声を出しながら身体を捻ったのだった。


「ご、ごめんごめん! 謝るから、脇腹くすぐらないで! ひ、あ、あははははっ!」


「笑う奴はこうなるんだよ!! 俺の気持ちを思い知れ!!」


「ひー! やーめーてーよ!!」


 ひとしきり笑った後、灯は目尻に涙を浮かべながら浮き輪から下りる。


 下りた時にチャッポンという音と、水飛沫が俺の方に飛んできた。


「しゃあ、次は俺の番だー!」


「私も押した方がいい?」


 後ろの方から灯の声が聞こえてくる。 うーん……ゆったりしたい気分だし、押さなくてもいいかな。


「押さなくていいよ。 波の揺れる感じをゆっくり楽しもう」


「分かったー!」


 俺たちは波に揺れて、夏休みの宿題やこれからある夏祭りについて話をする。


 すると、なんと灯の方から一緒に夏祭りに行こうというお誘いをもらった。


 元々今回のプールみたいに誘う予定だったけど、まさか灯の方から誘ってもらえるとは……。


 なかなか灯の中での俺の好感度、高いのかもしれないな。


「絶対行く! なにがあっても行くから!」


「そこまで言ってもらえると、誘った甲斐があったなぁって……う、うわぁぁぁぁ!!」


「おぉぉぉぉぉぉ!?」


 灯が言い終わる頃に今までで1番大きな波が、俺たちを襲ってきた。


 その威力は凄まじく、水の圧力でお腹が凹むぐらいだった。


「ぷはぁ! ここで1番大きな波がくるかー!! って、灯どうしたの?」


 俺が髪をかき上げて灯の方を見ると、灯は下を向いて身体をプルプル震わせていた。


 俺は視線を下げる。 灯の大きな胸は片手で隠されていたけど、そのボリュームでは全部は隠せていなかった。


 あっ……。


「灯、とりあえず両手で隠しといて。 俺、水着取ってくるから!」


「お、お願いぃぃぃぃ」


 少し遠くにはプカプカと灯の水着が浮かんでいた。


 誰にも取られないようにしないと!!


 その一心で俺は泳いで水着を取りに行く。


 水着を持った瞬間、さっきまで灯がこれを身につけていたのかと思うと、なんだか持っていることに後ろめたさを感じてしまった。


「はい。 水着取ってきたよ」


「ありがとう! 助かったよ! それで、あの、水着付け直すから、壁になってくれない……??」


「お、おう!!」


 陸まで距離があったので、灯はその場で水着を着け始める。


 俺の身体と浮き輪のお陰で隠せているけど、誰かに見られているのではないかと気が気じゃなかった。


 それは灯も同じようで、赤い顔のままなんとか水着を身に着けようとする。


 水着を着ける音が生々しく、水に浸かっているのに、心臓は信じられないぐらい暑かった。


「あ、あと少し……」


「そ、そうか……って、また波が来る! 今までで1番でかいやつ!!」


「き、きゃぁぁぁぁぁ!!」


「う、うひょぉぉぉぉお!!」


 波が来た瞬間、灯は俺の背中に思いっきり抱き着く。


 感触がダイレクトに背中に伝わり、その柔らかさと波の威力で変な声が出てしまった。


「ご、ごめん!!」


「べ、別に大丈夫だよ!!」


 波の威力でまた水着が外れてしまったけど、すぐさま水着を取り直して着けたから、一応灯は水着を着けている姿になる。


 でも、いつ緩んでも可笑しくないから、陸に上がってしっかり結び直したいという灯の意見を尊重して、俺たちはプールから上がった。


 灯は水着を着け直すために更衣室へと向かう。


 それを見送りながら、俺はさっき感じた胸の感触に興奮と罪悪感を感じたのだった。


「…………柔らかかったなぁ」


 俺は顔を真っ赤にしながら口元を隠す。


 きっと今の俺の顔は誰にも見せることができないだろうな。


「あぁ……これからどうしよう……」


 嬉しさ反面、俺はこれからどう過ごすか悩んだ。


 結局、灯が戻ってくるまで良い案は浮かばず、楽しいんだけどどこかギクシャクした雰囲気の中、俺たちはプールを楽しんだのだった。

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