第41話 チケット当選

 夏休みも中盤になり、午前中にあったプール監視員のバイトを終えた俺は、自室でゴロゴロしていた。


 外からは蝉の鳴き声が聞こえ、窓から見える入道雲がゆっくりと動いている。


 あぁ〜ガンガンクーラーが効いている部屋でアイス食べるのは最高だ。 夏満喫してるなぁ。


 ピコンッ


「ん? なんか連絡きた?」


 俺がアイスを食べながらボーっとしていると、連絡を告げる音が鳴った。


 俺は椅子から立ち上がり、ベットに無造作に置かれていたスマホを取る。


 画面を開いてみると、SNSグループに連絡が来ていた。


 送ってきたのは片桐さん。 俺はスマホを操作して開いた。


「なんだなんだ?……あ、そうだった!! 俺も確認しよ!!」


 俺はベットに寝転がりながら内容を見る。


 内容は、好きな歌手のライブチケット当選結果がついに発表され、片桐さんは外れてしまったという内容だった。


「バイトですっかり忘れてた。 俺も調べよ!!」


 俺は専門サイトを開き、番号やパスワードを入力していく。


 お待ち下さいという画面を見ながら、俺はドキドキしていた。


 当たるかな? 


 でも、片桐さんは外れていた。 倍率上がってるから、今回はダメかもしれない……。


 俺の思考はドンドンネガティブな方へと向かっていく。


 そんな時、画面がパッと変わった。


 俺は慌てながら当選という文字を探す。


 すると、右側の方に赤く当選と書かれていて、上の方には『チケットがご用意できたので、下記まで振り込んでください』と書かれていた。


「お、おぉぉぉぉ……!?」


 俺は何度も目を擦って文字を確認する。


 当たった実感が湧くと、俺は思わずガッポーズを取っていた。


「よっしゃぁぁぁぁぁあ!!」


 当たった! 当たったぞ! 


 これでライブにいける!


 俺ははやる気持ちを抑え、片桐さんを傷つけないように考えてから文章を打った。


『俺は運良く当たったみたい』


『えぇー! いいなー! 因みにチケットって……』


『自分の分しか申し込んでなかった』


『ですよねー』


 1人1枚ずつ申し込んだから、余分のチケットはない。


 何枚か申し込んでも良かったんだけど、全部当たったらお金問題が発生したり、誰と行くか問題も発生するから、1人1枚ずつにしようと3人の中で決めていた。


 でも、決めていてももしかしたら……っていう、儚い希望に縋りたい気持ちはとてもよく分かる。


 ごめん、片桐さん。 俺は君の要望に答えられないみたいだ。


『あ、私も1枚当たった』


 俺が心の中で謝罪をしていると、灯がメッセージを送ってきた。


『まじで!? 外れたのうちだけかよー! ちくしょー!』


『なんかごめんね、ななちん』


『うぉおぉぉん!!』


 片桐さんは泣いているキャラクターのスタンプを送ってくる。


 当たったのは俺と灯か……ん?


「やばい。 これはお泊まりデートなのでは??」


 今回のライブは11月の中旬にあり、場所は3つ隣の県にあるライブ会場。


 当たったらホテルとかも予約しないといけないねと以前みんなで話したから、泊まりは確定事項だ。


 ……男1人、女2人ならまだ少しセーフな気がしたけど、男1人と女1人はアウトじゃないか??


 泊まる部屋は別々とはいえ、なんかそのデートは高校生には早すぎる気がする。


 それに俺たちはまだ恋人関係になっていない。


 普通、異性の友達と1対1で泊まりがけでどこかに出掛けるか?


 ……出掛けないような気がするな。


 俺はスマホを見ながら考える。


 考えて考えて俺が出した結論は、片桐さんにチケットを譲るというものだった。


「流石に仲が良いとはいえ、異性の友達と1対1で泊まりがけで遊ぶってのは、なんだか気まずいよな……俺自身が少し気まずいって感じてるんだから、きっと灯も感じてるはず……うん、今回は勿体ないけど、片桐さんに譲ろう。 段階を踏んでいって、恋人関係になってから泊まりがけでデートに出掛けよう!」


 俺は決心をして、文章を打って送信しようとした。


 しかし、その前に片桐さんから釘を刺されてしまったのだった。


『さっから高山既読スルーしてるけど、もしチケット譲ろうとか考えてるなら、うちはいらないからね』


『え、よく俺が考えてること分かったな』


『うわっ! 半分冗談だったのにマジかよ! それは高山が自分の力で当てたもんなんだから、高山が使いなよ』


『でも、男と1対1で旅行ってのは、色々不味いんじゃない?』


『ま、不味くなんてないよ! 私、泉と旅行行けるの楽しみなんだから、遠慮しないでよ!!』


『そうだーそうだー! うちだって譲ってもらってライブ行くのは申し訳ないよ。 ライブ中、高山に対する申し訳なさで楽しめないかもしれないしさ、ここは私を助けると思ってあかりんと行ってきてよ!』


『それそれ! 私とななちんを助けると思って来てよ! 来てくれなかったら私泣いちゃうよ?? 都ちゃんと晴ちゃんに泣きつくから!!』


『うん。 分かった。 分かったからあの2人に泣きつくのはやめてな?』


 くそめんどくさいことになりそうだから、それだけは勘弁してくれ。


『じゃあ、私は行きますと宣言して!』


『宣言して!』


『俺、高山泉は永吉灯さんとライブに行きます!!……これでいい?』


 俺が宣言すると、2人はお揃いのスタンプを送ってくる。 うさぎが泣きながらありがとうと言っているスタンプだった。


『じゃあ、行くこと決まったし、善は急げってのことで、ホテルとか予約とろっか! ホテルは私に任せて!!』


『なら、新幹線は俺に任せて』


『じゃあ、うちは良さそうなお土産をピックアップするね!!』


『『いや、それななちん(片桐さん)が欲しいだけじゃん!!』』


『いいじゃんいいじゃん! 行けないんだから、お土産ぐらい楽しませてよー!!』』


 片桐さんのメッセージで思わず笑ってしまう。


 せめて、片桐さんには良いお土産を渡そう。


 そんなことを思いながら、俺たちはあれよこれよと予定を決めていったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る