第15話 妹分
「は、晴?」
「やっぱりいずみんじゃん! こんなところで会うなんて奇遇だねっ!」
「お、おう」
俺に笑顔で駆け寄ってくる女の子の名前は
都の親友で、俺にとても懐いてくれている女の子だ。
初めて会ったのは晴が5歳、俺が9歳の時。
最初に会った時は俺のことを『お兄ちゃん』と呼んでいたんだけど、小学校高学年ぐらいから俺のことを『いずみん』と呼ぶようになった。
「あ、こんばんは! 初めまして! 大槻 晴です」
「は、初めまして……永吉 灯です」
永吉さんは晴の登場にまだついていけてないようで、しどろもどろで挨拶をする。
ま、俺もまだこの状況にはついていけてないんだけど……。
「晴。 こんなところでなにしてんだよ?」
「私? 私は塾の帰りだよ!」
晴は体をこっちに向けて、背負っているカバンを俺たちに見せる。
最初は気づかなかったけど、確かに晴の塾用のカバンだな。
「大槻さん塾に通ってるんだ」
「そうなんですよー! あ、私のことは気軽に晴って呼んでください!」
「う、うん。 分かった。 じゃあ、私のことも灯って呼んでよ」
「歳上なんで灯さんって呼ばせてもらいますね!」
「俺も泉さんって呼んでくれてもいいんだぜ?」
「?? いずみんはいずみんでしょ? 今更呼び方変えないよ」
「なんでだよ」
「なんでもだよ」
こいつ……昔からちょくちょく俺のこと舐めてるよな。
「晴ちゃんってどういう経緯で高山君と知り合ったの……?」
永吉さんが不思議そうな表情を浮かべながら晴に聞く。
「私はいずみんの妹の親友で、5歳の時にいずみんと知り合いました! 私にとっていずみんはお兄ちゃんみたいな存在です!」
「都ちゃんの親友なんだ」
「都のことをご存知なんですか……?」
「うん。 この前家に行った時に会ったよ」
「家? いずみんと都の家に行ったんですか?」
「うん。 そうだよ」
「………………ふーん。 そうなんですね」
晴の言葉を聞いた瞬間、俺は背筋に冷たいものが走る。
晴の方を見ると顔は笑っているんだけど、目は笑っていなかった。
な、なんだ……? こんな晴は初めて見るぞ!
「晴ちゃんってとっても可愛いよね! 学校でもモテるでしょ」
「まぁ、そうですけど……」
都から晴は学校で1番モテるという話を以前聞いたことがある。
綺麗でサラサラな茶髪を肩の方まで伸ばしていて、整った顔立ちで中学2年生とは思えない大人っぽさを纏っている。
スタイルも読者モデルをしていますって言われても疑わないぐらい良くて、可愛い系よりは美人系の女の子だ。
ま、俺から言わせれば可愛い妹分で、そんなに大人っぽくはないんだけどな。
「灯さんもとっても可愛くてスタイル良いじゃないですか! 学校でもモテるでしょ?」
「い、いや〜別にモテないよ? うん。 本当だよ……」
「またまた謙遜しちゃって〜! ね、いずみん。 灯さんモテるよね?」
「あー……うん。 うん……」
「……は? まじ……?」
晴は唖然とした表情になり、空いた口が塞がらない。
晴の気持ちはよく分かる。 外見だけ見たら、晴と同等かそれ以上の可愛いさだもんな永吉さん。
でも、現実では永吉さんはあんまりモテない。
ま、俺からしたら好都合なんだけどな。
「は、はぁぁぁぁ!? 嘘でしょ!? 灯さんがモテないなんて嘘でしょ!?」
「嘘じゃないんだよね……」
永吉さんは頭の後ろに手を置いて、タハハッ……と苦笑いを浮かべた。
「いずみんの学校の男子アホなんじゃないの!?」
「それは俺も思ってる」
「えっ……」
「あっ……」
「…………」
「…………」
「ちょ、ちょっと待った待った! 良い雰囲気だすのやめてくれる!? ってか、さっきから私の感情ジェットコースターみたいに動き回ってるんだけど!!」
「大丈夫か? 俺の隣に座るか?」
「飲み物買ってこようか? なにがいい?」
「優しくしないで下さいよ!! もうっなんなの2人とも! 調子狂っちゃうよ!」
晴が普段では考えられないぐらい取り乱している。 晴にもこんな姿があるんだな。 なんだか新鮮だ。
「あ"っ!? ママから電話がかかってきた……いずみん、灯さん。 ちょっと失礼」
晴は俺たちに断りを入れて電話にでる。
そして、ちょっと話したあと、ため息を吐きながら電話を切ったのだった。
「ママから早く帰ってこいって言われたんで、私帰りますね……」
「おう。 おばさんによろしくな」
「晴ちゃん。 またね!!」
「はい……あ、灯さん。 連絡先交換してもらってもいいですか?」
「うん! 全然いいよ! むしろ私が交換したいぐらい!」
晴と永吉さんは連絡先を交換する。 2人ともとても笑顔だ。
でも、可笑しいな。 見ていて微笑ましい気持ちに全くならない。
むしろ、胃がキリキリ痛むんだけど。
「それじゃあ、いずみん、灯さん! またお会いしましょう!」
「お、おう……」
「またね——————!!」
晴は小走りで駅の方へと向かう。
俺たちはそんな晴の背中に向かって手を振ったのだった。
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