第10話 イヤホン

 俺の家でライブDVDを見た次の日、学校で永吉さんが休憩時間にかなり俺に話しかけるようになった。


 今までもちょくちょく話すって感じだったんだけど、今日の昼休みまでの全部の休憩時間で、永吉さんが俺に話しかけきている。


 内容は俺と片桐さんが好きな歌手についてだ。


 どうやら、昨日俺の家で開かれた鑑賞会で凄くその歌手のことが気に入ったようで、昨日からずぅぅぅとその歌手の歌を聞いているらしい。


 歌詞やリズムが頭から離れなくて、授業に集中できなくて困っていると苦笑いを浮かべていた。


「高山君。 まだ借りてないCD明日持ってきてもらっていい?」


「いいよ。 そこまでハマってくれてるのみると、こっちも嬉しいよ」


「いや〜まさかここまでハマるなんて自分でも思っていなかったよ!」


 永吉さんは頬杖をつきながらニコニコ笑う。


 どうやら片桐さんに以前薦められたことがあったみたいだけど、その時はハマらなかったみたいだ。


 やっぱり情報とかだけじゃなくて、視覚的にも見ると見方とかが変わってくるのかな?


「高山君のオススメな曲ってどれなん?」


「俺はこれ」


「あぁ〜これね」


 永吉さんがスマホのミュージックアプリを操作しながら聞いてきたので、俺は指差しをしながら答えた。


「この曲って歌詞がポジティブで、聴いていて前向きな気持ちになれるよね」


「スッキリとした明るい雰囲気の曲で、凹んだり嫌なことがあった時に聴いたら前向きになれるんだよなぁ」


 俺たちは雑談を楽しむ。 俺がその歌手の豆知識を伝えたり、歌詞ができた背景などを解説すると、永吉さんは驚いたり喜んだりと、話しているこちらが嬉しくなる気持ちの良い反応を返してくれた。


 永吉さんって感情豊かだから見ていて楽しいけど、話していたらもっと楽しいんだよなぁ。


 相手が楽しく話せる雰囲気を自然と作ったり、 安心して聞いてくれるっていう信頼感を作ることができるのって、永吉さんの素敵なところだと思う。


「ねぇねぇ! ここの歌詞無茶苦茶良いよね!」


「どこどこ?」


「ここ、ここ!」


 俺が永吉さんの良いところを思いついていると、オススメの歌詞部分を薦められる。


 そして、永吉さんのイヤホンが俺の右耳へとつけられた。


 もう片方のイヤホンは永吉さんの左耳へとつけられている。


 カップルがするような行動に、俺は顔が少し赤くなってしまった。


「ここさ—————」


「!?」


 そんな俺にお構いなしで永吉さんは俺との距離を詰める。 


 永吉さんの綺麗な黒髪から優しい匂いが俺に届き、女の子特有の柔らかい腕の感触が俺の左腕に伝わった。


「やばいよね〜……高山君聞いてる?」


「聞いてる聞いてる!!」


 ヤベェ!! 色々な情報や感触が一気に俺を襲って、頭パンクするところだったわ!!


「そ、そんなにハマってくれて嬉しいよ!」


「いや〜まじでこの歌手いいよね……ライブとかあるなら私行きたいよ」


 永吉さんの呟きを聞いて俺に1つの案が浮かび上がる。


 これは……永吉さんとの仲をもっと深めるチャンスじゃないか!?


「この歌手のライブ、1ヶ月後にこの辺である予定なんだけど、チケット2枚あるから一緒に行かない?」


 1人で行くのは嫌だから、実は都を無理に誘ってチケットを2枚取っている。 


 都は興味があまりないライブに行かなくて済む。


 永吉さんはハマっている歌手のライブを見ることができる。


 俺は好きな人とライブを見ることができる。


 みんな幸せになれるし、一石二鳥じゃなくて一石三鳥だ。


「2枚ってことは、誰かと行く予定だったんじゃないの?」


「友達と行く予定だったんだけど、そいつ行けなくなっちゃってどうしようか困ってたんだよ」


「そうなんだ……」


 もちろん嘘である。 友達はいるけど、その歌手のことが好きな友達はいない。


「俺も困っててさぁ。 俺を助けると思って永吉さん一緒に来てくれない?」


「じゃあ……そこまで言ってくれるなら、ぜひご一緒させてもらおうかな」


「よっしゃ! ありがとう!」


 俺は歯を見せながらニカッと笑い、爽やかな笑みを浮かべる。


 しかし、内心はテンションが爆上がりしていた。


 よっしゃぁぁぁぁぁ!! 永吉さんとライブデートじゃぁぁぁい! ふぅぅぅぅぅぅぅ! 最高だぜぇぇぇぇ!!


「詳しいことは日にちが近づいたら伝えるね」


「りょーかい! よろしくねー!!」


 そこでちょうど予鈴の鐘が鳴る。


 俺たちはイヤホンを外して話すのを中断し、5限目の準備を始めたのだった。


 とりあえず、都には甘い物を買って帰ろう。

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