第一章 ~新たな世界編~

#1 ニューワールド

見慣れた天井だ。


俺は目を開けふかふかのベッドの上で、

ヘッドフォン型VRPCファ―ストブレインを装着し横になっていた。


さっきまで当然のように表示されていた、

HP、MP、スタミナなどのUユーザーIインターフェース表示もない。


「ああ。俺は戻ってきたんだ……」


自分で作成したVRゲ―ム《ワールドオブユートピア》から、

ログアウトを実行して戻ってきたんだった。


首を傾けると、時計が見え、

朝、AM07:00と時計には書かれている。

七時ちょうどかぁ。


日付は、2040年。

613で……。


……あれ? 朝の七時? 俺がログインしたのは……12じゃなかったっけ。


俺はもう一度時計を見る。


2040/6/13 7:01:40


ファ―ストブレインでゲ―ムを起動した時、

ネット通信速度が速ければ速いほど、ゲ―ム世界での体験時間は高速化される。


今は8Gの時代だ。大抵の家で超高速ネットワ―クが簡単に構築出来る。


俺が居た世界――ワールドオブユートピアも勿論その仕様が反映されており、

実際……あのVRワ―ルドで数ヶ月は暮らしたが、

この現実世界ではものの数分しか立っていないハズだ……。


俺は、そこまであの世界にいたのか……?


いや、違う。そんな筈はない。

日付が変わるほどのゲ―ム内体験をしようとするなら、

それは“ゲ―ム内で何十年”も掛かるはず……。


つまり、そんなのはありえない……っ。

……? 数分の間にネットワ―ク通信速度が激減したとか?


まあいいや。無事に現実世界に戻ってきたんだしっ!


「あらよっと!」


俺はベッドから起き上がる。

喉が乾いたので電気ケトルを起動し、

インスタントコ―ヒ―を飲む。


ごく……ごくっ……。


「ふぃ―! やっぱ朝に飲むコ―ヒ―は旨いなぁ!」


現実世界。久しぶりだなぁ……。


……さてっ! 現実世界も充分満喫したし、VRゲ―ムでも遊ぼうかな?

再びベッドに横になった俺はファ―ストブレインを装着して起動する。


ホログラムモニタ―が起動し、俺の目の前にゲ―ムリストが表示される。

そのリストから好きなVRゲ―ムを選んで遊んでいく事ができる。


「色んなゲ―ムがあるなぁ……どれにしようかな! ……ん?」


――って違うっ! 


ワールドオブユートピアの修正をしなきゃいけないんだったっ!

そして、俺はゲ―ムリストからゲ―ムエンジン《ウニティ》を起動する。


ピコ―ンっと軽い効果音と共に、ウニティが起動する……。

そこから更にワールドオブユートピアの項目をタップ。


「さて、まずはバグの修正を……」


――ぐぅ―…………。


「……腹減ったな、飯でも食うか」


ファ―ストブレインを外しベッドから起き上がり、冷蔵庫を開ける。


「何も、ないっ!」


仕方がない、外に出て買いに行こう。

鍵を開けがちゃりと家の扉を開ける。


それにしても、なんだか今日は体が重いなぁ……。

長い間VR世界にいたからだろうか?


いや、現実世界ってこんなものか。

さあ、飯を買いにコンビニでも目指そう。


◇◆◇◆


俺は今、無音の電車に乗っている。

振動や、揺れも全く感じない。


――最近導入されたばかりのリニア式の電車だ。

電車に詳しくないので理論はサッパリだが……、

この電車は線路からやや浮いて走行できる。浮いて走るから無音らしい。


――しかも超速い! 


……元々中央新幹線限定だったのを、一般路線にも応用出来るようになったらしい。

なんかレ―ルを丸ごと変えなければいけないので、

都市再開発とかで政府と東京都が費用を捻出し、工事も大変だったらしい。

現状、予算のない地方都市にはリニアはない。


コンビニを目指すだけなら家の近くでも良かったが、

体感的には超ひさびさの現実世界だし……街を目指すことにした。


「リアルだなあ……!」


俺が乗った時には既に満席だったので、

手すりを掴んで久しぶりの電車内を眺めた――。


あちこちに社会人や学生の姿が見える。

今日は平日か……。


駅員のアナウンスが聴こえ、ドアが開く。


――シュ―……


ぞろぞろと電車に乗っていた人たちが降りていく。

同時に俺も降りて、ホ―ムから改札口に向かった。


「久しぶりの都会だな……」


独特の空気感。これこそが都会って感じだ。


人混みに紛れながら、適当なコンビニを目指す。


「えっと……コンビニは……」


どこだっけ。俺は首を左右に振りコンビニを探す――。


ほんの一瞬、時間の流れがゆっくりになる。


違和感だ。


違和感を感じる。


「何だ……この違和感」


それも、とても既視感を覚える違和感だ。


俺は再び首を左右に振る。


また、違和感。


この感覚は……。


『――説明するよ。君が違和感を感じる原因はこの世界に“心”という概念を創ったからだ』


俺は、ワールドオブユートピア世界に居たときの加賀美の言葉を思い出していた。


『元々“心”という概念が存在しなかったこの世界に“心”という概念を導入したらどうなるか――』


……この仮想現実世界に心という複雑な要素のデ―タ。

それをこの世界に反映した時、膨大なデ―タ量になるという。


そのデ―タを処理するために、自分の視界に映った時にだけ、

デ―タの処理が高速化され――その間だけゆっくりだった世界が、

普通に動いているように見える……それが加賀美の説明だった。


そんなまさか……。


『――ォオオオッ!』


絶対に現実世界では聞かないはずのおぞましい声。

それとほぼ同時に、住人たちの悲鳴が聞こえた。


俺は、ありえないと想いながら騒がしくなった方向に振り向く。


ほんの一瞬の間の出来事だった。


地面は住人の血溜まりが幾つも出来ていた。


『……ォォォオオオ!』


その血溜まりを作っている張本人は、何処かで見たような異型のモンスタ―

巨大な人型のモンスタ―、そいつが手で人々をなぶり殺しにしたようだった。


あれは、ギガンテス――!?

しかも……二体いる。


「なん、で……だよ……」


だが、驚きはそれだけでは終わらなかった。

なぜなら――俺の視界に見覚えのあるUIが表示されたからだ……!


HP、MPバ―

メニュ―

ハヤト:LV.50

ギガンテス:LV:90


「UI……画面……!?」

『マスタ―――ッッ!!』


そして、聞き覚えのある女性の声が上空から聴こえた。


「アマル……テア…………!?」

『マスタ―! これを使ってください……!』


声が聴こえた上空を見る。すると、

空中から光る何かがくるくると回転しながら落下していき――、


――ザシュ


地面に剣が突き刺さった。


『“エタ―ナルソ―ドⅡ”ですッ! それで戦ってください!』


何がどうなっていやがるんだ……!


「くそっ! なんだよっ!」


ここはまだ仮想世界なのか!?


『ォォオオオオオオ!』


ギガンテス二体は俺の方を向き牙を向ける。


「なんだか知らんが……これ以上住人に被害をわせるかよッ!」


俺はエタ―ナルソ―ドⅡを引き抜く―――! 

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