高速で点滅する光

牧場 流体

1話目 スイミング

 「LSDをやってる時は酒を飲んだらあかんねんで。」


 だらしなく笑うタクミは素面しらふなのか大麻を吸っているのか分からない程、異常に表情をゆがめ、俺を迎えた。




 初めて会ったのはアメ村の スイミング というバーで、俺がそこで働き始めてすぐの7月だった。

 イベントをやっているという自称ラッパーのタクミはその手の奴らがよく訪れる土曜日21時に関係者を引き連れやってきた。最初は半グレ集団だと思っていたが、直感は特に間違ってなかった。


 雑居ビルのカウンターしかないスイミングは一見では絶対に入らないような居住いずまいで、ここのオーナーと個人的な付き合いのある、クラブ関係の自称アーティストや貧乏クリエイターが今日も席を半分埋めている。

 店にもターンテーブルが置いてあり、不定期で内輪うちわのイベントが行われる。店内はその関係者のフライヤーが壁一面に貼ってあるが、本物のアーティストとは一度も出会ったことが無い。


 何かになりたい若者が集まり、俺もその一人だった。ここは偽物の才能を信じ込み、真面目に週五で朝から晩まで働くなんてとても出来ないと思い込んでる社会不適合者で循環する薄汚れた生ぬるい水槽だ。

 そして何者でも無かったと気付き、ここを去るのはその内の半分もおらず、あとは人生が少しずつどん底に落ちて行くパチンコを眺め続けている。



 2回目に会ったのは、タクミが一人で平日の深夜にスイミングに来た時だった。他に客もおらず店員は俺だけで、店には軽めのダブがゆっくりと流れていた。


「君新人?」


 ビールを注文してすぐに話し掛けられた。

 俺はタクミが前回来た時を覚えていた。the notorious B.I.G. のTシャツにアイスブルーのデニムは上下ともに細長い体にオーバーサイズで、限定の白いスニーカーは綺麗に磨き込まれていたのが印象に残っていた。

 挨拶をするが、外面ほどかくばった印象は無く気安きやすくて、分かる人にだけ分かってしまう、を巻き散らかしている。


「同い年くらいちゃう?前何しとったん?」

高校出て会社辞めて、フラフラしてます。今年21です。


「ほんまにおないやん、高校どこなん?」


 しばし聞かれたが、同じなのは歳だけで地元も共通の知り合いもいなかった。それが何故か心地良く感じた。



 幸いにもその日はラストまでタクミ以外の客は来ず、俺も酒を貰って音楽のこと、イベント関係のやつらの愚痴、ネットに載って無い野外イベントのこと、色々と話し込んだ。

 朝6時ごろに店を閉め、通りまで一緒に出る。俺は自転車でタクミは近所なので歩きで帰ると言って別れる。


 交換したlineが早速鳴り、メッセージとフライヤーが送られてきた。


「今日はありがとな、 ケミスト で毎週金曜イベントやってるからよかったらおいで。」



 人間関係なんて簡単にリセット出来る。

 おもろいやつに出会ったのでしばらく楽しめそうだと、久しぶりに爽やかな気分になった。

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