第13話 4月1日
「もしかして
突然声をかけられ、スマホをから目を離し私は顔をあげた。
黒い服の女性が立っていた。
女性の後ろには青空が広がり、宙を舞うピンクの花びらがやけにキラキラしていた。
「は、はい」
声が震えていた、そして小さくうなづいた。
「はじめまして、
「タカアキの、お母さん! 」
驚いて声が裏返った。
「よくきてくれました。勇気がいったでしょう、クラスメートの方と先生たちは沙耶さんが来る前に帰られました」
言葉が出ない。
小さく頷いた。
タカアキのお母さんは並んでベンチに座った。
そして私を優しく見つめた。
「貴章が自慢していた通りの本当に可愛らしい方ですね」
私は左右に小さく首を振った。
「来てくれて本当にありがとう、貴章も喜んでいると思います」
お母さんは頭を下げた。
心臓がバクバク言って頭が真っ白になりそうになった。
お母さんは小さなポーチから綺麗に折りたたまれた、一枚の折り紙を取り出した。
「これをあなたに渡してほしいって頼まれました、受け取って」
「私にですか…」
「ええ…」
お母さんはにっこり微笑むと私の手を取って折り紙を手のひらにのせた。
私はゆっくり折り目を広げた。
折り紙の裏の白いところにエンピツで弱々しい文字が書かれていた。
『大好きな沙耶へ
僕を待たないで下さい
新しい彼氏をみつけてステキな人生を歩んで下さい
今まで本当にありがとう
そしてゴメンなさい 貴章』
そして私は建物の入り口をみた。
ピンクの花びらがやたらと舞い落ちる奥に文字が見えた。
『故 神原貴章君 葬儀会場』
「抗がん剤で髪が抜けて、沙耶さんに撫でさせてあげれないから、病院の場所は誰にも教えないでほしいというのが、貴章の望みでした。白血病でした。この手紙を書いた次の日に亡くなりました」
私の視界がどんどんゆがみ、声をあげそうになった、いつもお母さんが呼ぶように大声で叫びたかった。
でも貴章は私の笑顔が大好きなんだ。
そんなことできない。
貴章の前で泣くもんか、でも笑うことなんてできないよ、どうすればいいのか全くわからないよ。
貴章、タカアキ! タカアキ!
すると貴章のお母さんは、そっと私の肩に手を回し、私の頭を胸の中に包み込んでくれた。
あたたかかった、優しかった、まるでタカアキにそうされているみたいだった。
頭が真っ白になる、身体が固まって身動きとれない。
「沙耶さん無理しないで、後で住所を教えるから、いつだっていいから来て下さい。貴章はあなたがいたから最後まで頑張れました。ありがとう」
「嫌だあ、タカアキと別れるの嫌だあ! 」
とうとう私は大声を上げた。
タカアキのお母さんの懐で、涙腺が崩壊し涙が溢れた。
次から次へと涙が溢れる、止まらない。
ゴメンねタカアキ、ゴメンね笑顔をみせられない、ゴメンね涙が溢れて止まらない。ダメな彼女でゴメンね……ゴメンね。
ゴメンね…
私は結局、建物には入れなかった。
タカアキのお母さんと別れてどうやって帰ったのかも覚えていない。
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