第19話 幼なじみの王子さま 4
「それにしても、すごい場所だね。この洗練された空間は、メアリ嬢がひとりで作ったのかい?」
「不器用な私じゃ無理だってことくらい、ラテス殿下もわかっているでしょ? 私がしたことなんて、あの子たちを召還したくらいよ」
「あぁ、やはりこの大きなキノコたちは、メアリ嬢の召喚獣たちだったのか」
召喚獣まで優秀だなんて、さすがはメアリ嬢だな。
そんなのどかな声が、死の森とも呼ばれる最悪の処刑場に溶け込んでいく。
青い空に、白い雲。
黒い木々に、リトルドラゴンを狩るキノコ達。
ハンモックに揺れるメアリの声を聞きながら、ラテス王子が楽しげに微笑んでいる。
そんな王子たちの傍らで、たった1人の護衛が、額に大粒の汗をにじませていた。
(殿下! 殿下!)
どこに敵いるとも知れぬ土地ゆえに、声は小さく。
不作法とは知りながらも、指先で上着の裾を引いく。
(どうした?)
(あちらを!!)
注意を促しながら腰の剣に手を伸ばして、いつでも動けるように姿勢を整える。
視線の先にあるのは、青い鱗に覆われた巨体と、真っ赤な2つの瞳。
「青竜!?」
大きく目を見開いたラテス殿下が、メアリを守るように前に出る。
青は災いをもたらし、一晩で町を滅ぼす。
晴天から降り注ぎ、迅速をもって人々を食い殺すと聞く。
最悪とも言える相手が、地を這うような姿勢で、柵の向こうから近付いていた。
青竜は、空を飛ぶ。
地面に突き立てただけの木の柵が、役に立つはずもない。
(勝てる相手ではありません! 時間を稼ぎます! メアリ様やそこの少女と共に、お逃げください!)
周囲のキノコたちにも手伝ってもらって、1秒でも長く足止めをする。
それ以外に、選択肢はない。
(娘には、ずっと見守っている、そう伝えて頂ければ)
ラテス殿下ならきっと、手厚く保護してくれるだろう。
思い残しは沢山あるが、自分の選んだ道だ。
老いた者には、若者を守る義務がある。
(早く!!)
「くっ……。メアリ嬢! この場は召喚獣たちだけでどうにかーー」
「あら? 今日の獲物は青色なのね。ラテス殿下のために頑張ってくれたのかしら?」
「「…………へ?」」
「青色は、脂がのってて美味しいのよね」
よいしょ、なんて言葉と共に、メアリがハンモックから身をおろす。
呆然と立ち尽くす男たちを後目に、軽い足取りで地面へと降り立った。
「始めるわ。みんな、集まってくれるかしら?」
「「「キュ!!」」」
なんて声と共に、キノコたちが集結する。
「「きゅ!」」
鱗と皮、爪や牙などが見る見るうちに剥ぎ取られていく。
「さぁ、焼くわよ!」
「「「きゅっ!」」」
大きな肉の塊が大木に突き刺さり、炭火の上に吊される。
メアリ嬢が奏でるフルートの調べに合わせて、キノコたちが青竜の肉をクルクルと回しながら、その周囲を舞い踊っていた。
「ええっと、これは……?」
「バーベキュー、に見えますな……」
呟くように話す男たちの存在なんて、視界に入っていないらしい。
程よい焼き目が付いて、肉汁が滴り落ちる。
キノコたちの踊りが激しさを増して、シュワッ、と炭火に触れた旨味が、周囲に漂ってくる。
「きゅっ!!」
【上手に焼けましたー】
どこからとなく、そんな声が聞こえた気がした。
「リリ、切り分けてくれるかしら?」
「はい! 任せてください!」
きれいな笑みを浮かべたメイドの少女が、肉に包丁を突き立てて、程よいサイズに切り分けていく。
表面の皮がパリパリと音を立てて、切り口から肉汁が溢れ出す。
ハーブが混じった塩を振って、完成らしい。
「出来ました」
「ご苦労様。それじゃぁ、ご褒美ね。はい、あーん」
「わっ、ありがとうございます! 熱っ、うまっ! 美味しいです!」
「そう、それは良かった」
決死の思いから数分。
「本日のお夜食です。ご賞味ください」
毒味まで済ませた美味しそうなお肉が、目の前で輝いていた。
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