第7話 王都の王子たち 2
「誰か! 誰か居らぬか! 平民王子が乱心だ! 切り捨てよ!」
リアムは自らも剣に手を伸ばしながら、周囲に向けて声を飛ばす。
勝った。完膚なきまでに。
王太子の部屋での抜刀は、裁判を待たずに死罪と決まっている!
メアリに続いてラテスまでもが自滅するなど、このような幸運は神々の意志に違いない。
「その道しるべ、確かにもらったぞ!」
剣を片手に持ち替えて、胸に手を当てる。
この幸運もまた、神々の使途たるマリリンの加護に違いない。
これで邪魔なヤツは等しく死んだ!
そんな思いを胸に、リアムがニヤリと唇を吊り上げる。
聞こえて来るのは、雪崩れ込む兵士たちの足音と、
「メアリ嬢釈放の書簡です。持ち場に戻ってください」
堂々とした、ラテスの声。
「「「はっ! 失礼します!!」」」
そしてラテス王子が掲げる紙を見詰めた男たちが、兵士の礼をしてクルリと背を向けた。
リアムに視線を向ける者など、誰もいない。
「なっ!? おい、貴様等!」
「アナタとアナタ、それに隊長であるアナタもこの場に残ってもらえますか?」
「「「はっ!」」」
「なんだと!?」
指名を受けた者が穂先をおろして、鋭い視線をリアムに向ける。
その視線を追うかのように、3本の切っ先がリアムの額に向けられていた。
なんだ!? 何が、どうなっている!?
「ふざけるな! 貴様等は余の護衛であろうが!」
敵はそこの平民だ!! 切り捨てろ!
そう叫んでも、向けられた切っ先に動きは見られなかった。
ジリジリと後退を続けながらも、周囲に向けて怒鳴り続ける。
そんなリアムの姿を見下ろしたラテスが、天に向けて大きく息をした。
意図的に髪をかきあげて、普段通りの表情を作り出す。
「兵士は上からの指示に従う者だよ。兄さんの護衛じゃない」
「貴様!!」
苛立った目でリアムが睨むけれど、現実はなにも変わらない。
ここに残った2人は、投獄当日までメアリの護衛を担当していた者たちだ。
指示と感情が一致している彼等に対して、万が一など有り得ない。
(元帥もこちら側です。終えた後は2人の希望を聞き、それぞれの配置へ)
(心得ました)
隊長だけに聞こえる声で指示を出して、喚き続けるリアムの元へと近付いていく。
切り捨てたいところだが、ここへはメアリを釈放しに来ただけだ。
切り捨てるだけの大義名分はない。
「さてと。1つ聞かせてもらえるかな? マリリン男爵令嬢が階段から突き落とされた日時を、兄さんは覚えているかい?」
あえて挑発な言葉を選んだが、予想通りにリアムは食いついた。
見るからに怒り心頭と言った様子で、歯を食いしばりながら拳を握り締める。
「覚えているかだと!? 忘れるものか! 腕に青あざを付けながら、泣いて余の元に来たのだぞ!? メアリを断罪したその前日! 7月21日のことだ!」
「令嬢は階段を落ちる最中に、腕を突き出した体制であざ笑うメアリ嬢を見た。そうだったね?」
「あぁ! マリリンは可愛いだけじゃなく、目も良いからな!」
苛立たしげに叫びながらも、リアムが得意げに胸をはる。
そんなリアムの態度に戸惑いながらも、ラテスは学園の公欠届けを投げ落とした。
「その日、メアリ嬢は学園に行っていない。知っていたかい?」
「なんだと!?」
担任と学園長の判が押されたそれには、7月21日の日付と共に、メアリの名前が確かにある。
「学園にいない彼女が、どうして男爵令嬢の背中を押せたのかな?」
「そっ、それは!」
言葉に詰まりながらも顔を真っ赤に染めて、リアムが力強く拳を握る。
おそらくは何かしらの言い訳を考えているのだろう。
紙と宙を何度も行き来した視線が、やっとの思いで交わった。
「知れたこと! その用事とやらを抜け出して、あの悪魔はマリリンをーー」
「そう。それが用意されたシナリオだろうね。教会が主催したパーティーへの出席。それが公欠の理由であり、そのパーティーの出席名簿に、メアリ嬢の名はなかったよ」
「やはり!」
「でもね。隣国の王子との会談記録が、相手国に残っていたよ」
懐から2枚の紙を取り出して、見えやすいように掲げて見せる。
そうして新たな紙が、リアムの前に落とされた。
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