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三島中央病院を出ると、新見はそのまま三島市立図書館に車を走らせた。御光の家の資料を探す為である。
一階入り口から入ると右手に貸出しカウンターがある。無意識に昔の癖でつい覗いてしまう。
十年前、捜査資料を調べに来館し真由理と出会った。話し掛けたのは彼女からだ。
・・・・
捜査に関わる資料を何冊か選別し、カウンターに行くと、「あなた新見さんでしょ。お巡りさんの」と、貸出し担当の女性から声を掛けられた。
眼鏡をかけた賢そうな顔立ちだが、表情は無く冷たい感じを受けた。歳は新見よりも上か……まばたきをせず、口角が微かに動くような話し方が印象的である。
「知っていますよ、ご活躍はネットニュースで読みました。沼津には立派な図書館があるのにここで借りるんですか」
新見がまだ、一言も発していないのに話し続ける。
「あぁ、お住まいがこちらなの、今日は非番ですか。でもスーツを着て……そうか、刑事さんになられたのね。三島署ですか」
「ぷっ……」
思わず吹き出してしまった。
「いや、失礼。あなたこそ刑事のようだ」
新見の反応に満足したかのように、真由理の表情から初めて笑みが零れた。そのギャップに、
「素敵な笑顔だ……」
つい口を滑らすと、
「写真だと堅い印象を受けたけど、結構チャラいのか。ごめんなさい一方的に、麻生と言います」
と、嫌みの無い笑顔を向けた。
「あらまぁ真由理ちゃん、笑うのね。仕事中に笑うの初めて見た。お知り合いなの」
隣で事務をしていた中年女性が、目を丸くしてこちらを見つめている。
「あそう まゆりさん……と、仰るんですね」
笑いながら新見は胸ポケットから万年筆を取り出すと、メモをとるジェスチャーをした。
「ドルチェビータですね。限定品のオーロですか、素敵な色だ」
イタリア製のお気に入りのオレンジを褒められ、真由理の笑顔にくぎ付けになった。
・・・・
御光の家としての単独資料は見つからなかったが「新新宗教総論」という、ごく最近設立された宗教団体を紹介した本に、御光の家の内容が掲載されていた。初刊発行は平成十年となっている。
(破綻解散の前か……)
パラパラと捲ってみると何枚かの写真も載っている。本を持って読書の出来るテーブルに向かったところで、胸ポケットのスマホが振動した。三島署からの着信であった。
「警部お忙しいところ恐れ入ります。先程、自宅近くのスーパーで斎藤 政志の身柄を確保しました。任意同行で三島署に向かっております」
大木からの連絡を受け、「承知した。今から署に戻る」と電話を切った後、貸出しカウンターで警察手帳を見せ署名をすると、すぐさま三島署に向かった。
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