第2話


 さて、昼の十二時ちょうどに指定された場所へ行くと、スカルフェイスのサンタがいた。


 ビルは都心のほど近くにある何の変哲もない商業ビルで、地下は古ぼ――失礼、貫禄のあるバーであった。準備中の札が掛かっていたが、無視していいと言われていた俺は構わず中に入り、そこで冒頭に述べた風体の人間を見つけたのである。


 誤解なきよう、再度言っておこう。


 スカルフェイスのサンタがいた。


 正確に述べるのであれば、テーブルの向こうに座っている人はサンタの衣装を着ていたのだが、その赤い帽子の下に骸骨のマスクを被っていたのである。やけにクオリティの高いリアルな骸骨であった。何を仕込んであるのか、目が淡く緑色に発光している。

 恐る恐る彼(でいいのだろうか)を窺っていると、


「やぁ」

「うおあああああっ!」


 しゃがれた声が唐突に骸骨から発せられて、俺は思い切り飛び退き、その拍子に足をもつれさせて尻餅をついた。


「はっはっはっはっ、何をそんなに驚いている。まぁ、驚くのも無理はないが」


 しれっと矛盾したようなことを言いながら、骸骨サンタは立ち上がって、俺に向けて手を差し伸べた。


「バイト希望の者だね? 確か……カタナシ君」


 俺はようよう掠れた声を出した。


「……いえ、タカナシです」

「あぁ、タカナシ君か。これは失礼」


 俺は骸骨さんの手を借りて立ち上がった。黒い手袋をしていたのでよくは分からなかったが、随分と細く、力を入れるのに恐れを抱くような手だった。


「私のことは、そうだな、トラヤとでも呼んでくれ」


 一旦離して仕切り直すのを億劫がったのか、骸骨さん改めトラヤさんは、俺を手伝う流れの中で握手を済ませ、ひらりと踵を返した。音もなく席に座り直し、ひょいと向かいを顎で示す。


「さぁ、それじゃあ、座りたまえ、ヤムナシ君」

「タカナシです」

「おっと、失礼、タカナシ君」


 どうも人の名前というものは覚えにくい――と、トラヤさんは肩を震わせた。おそらく笑ったのだろうと思うが、骸骨は緑色に目を光らせるだけで、おどろおどろしい表情のままであった。


「さて、早速だが、業務内容を説明しよう。

 我々クリスマス防衛軍の仕事とは、その名の通り、子どもたちの夢と希望にあふれるクリスマスを、悪しき者どもの手から護ることだ」

「はぁ」

「ふふふ、気のない返事だ。ああいや、それが当然の反応だよ。責めているわけではないから、気にしないでくれたまえ」

「はぁ……」

「大抵の人々は、クリスマスを単なる楽しい楽しい一イベントとしか捉えず、その裏面を見ようともしない。いや、これは何も、クリスマスに限った話ではないな。人間とは総じて、目に見えるものしか信じず、都合の悪いものは見ようともしない。まぁ、そのこと自体は良くも悪くもないのだがね。何もかもを見よう、理解しようとすれば、畢竟パンクするほか道はない。情報の取捨選択とは、生きていく上で重要な能力の一つなのだ――っと、失礼。話が逸れたね。

 ま、要するに、クリスマスにはまだ、君が知らない側面があるということだよ。その内の一つでね、悪サンタの存在は」

「あくさんた…?」

「そう、悪サンタ。書類上では、サンタ(悪)と表記されるけれど、呼称としては悪サンタと呼ぶのが正しいね」


 心底どうでもいいと思った直後に、トラヤさんに「どうでもよさそうな顔だ」と笑い混じりに言われた。俺は顔をうつむけ座り直した。

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