第11話 魔剣『雷切』
「これへ。クラウス殿」
従者であるシンタ少年に支えられながらも、前を歩くドウセツに誘われて、クラウスは師の館の奥へと踏み込んだ。そこはクラウスが寝泊まりをしている部屋よりももっと奥で、おそらくドウセツと、その極近しい人間しか踏み込まない場所だろうとクラウスは感じた。
最奥の部屋に入るように促される。タタミという、草を編んで作る床材の感触を素足の裏に感じながら、クラウスはハカマの裾を割って、部屋の中に足を踏み入れた。
そこで、クラウスは思わず立ち止まった。知った気配を感じたからだ。だが、こんなところでその気配を感じるはずはない。そう思った動揺が、クラウスの足を押し止めていた。
「……どうされた、クラウス殿」
「師よ。この部屋に、刀剣が?」
クラウスの問い掛けに、ドウセツの気配が明らかに変わる。言い当てられて驚いた、と言うような気配ではない。それは、やはりな、と納得するような気配だった。
「座られよ、クラウス殿。この部屋にアナイした理由をお話しする。……シンタ」
「はい、ドウセツ様」
ドウセツが上座に座り、シンタがその場を離れる。何をすべきか悟っている足取りで、シンタは部屋の角に向かっていく。クラウスはその場に胡座で座った。
シンタが部屋の角から戻ってくる。少年が近づくにつれ、クラウスが感じた『知った気配』は強くなった。おそらく、シンタ少年が気配を持ってきたのだ
「感じておられるな、クラウス殿。ここにある刀剣の気配を」
「ええ。強い、強い気配です。……魔剣、ですね」
シンタが手にしたものをドウセツに手渡した。何処となく、蒼白い光のようなものをクラウスは思い描く。ドウセツの手元に、蒼白い輝きがあり、それは鞘から抜かれて輝きを増した。
「やはり、ご存知であったか」
「師は、わたしを見たときに、魔剣の気配を感じられたのでは?」
「……それもわかっていたか」
「いえ、いま思ったことです。……わたしをモンテイとして迎えた理由が、その刀剣にあるのであれば、師は感じられたのではないか、と。わたしが……」
「そなたの中に、これと同じものを見た。同じ力、と言うべきか」
わたしが魔剣に乗っ取られた過去を持つことを。それをクラウスが口にする前に、ドウセツはやや語気を強めて言葉を放った。感じ、そして悟っていたのだろう、とクラウスは理解する。
「このカタナは『ライキリ』という。雷を切る、と書く。『雷切』だ。我が家に伝わる魔剣で、元々は、過去に中央を制し、その覇権をこの島のような末端まで押し広げた超大国によって作られた、百振りの刀剣のひとつだ」
「……百……魔剣……!」
クラウスは驚きのあまり腰を浮かせる。その瞬間、目の前のドウセツから、クラウスもよく知る、魔剣がその内に備える、強い魔力が吹き出した。やはり蒼白い輝きを持った魔力が、ドウセツの身体に流れ込む。
だめだ、とクラウスは反射的に叫びそうになった。それはクラウス自身が、身をもって体験したこと……意思ある魔剣にその身を乗っ取られた時に起こった、魔力の流入と同じに感じたからだ。
だが、ドウセツの気配は消えなかった。むしろそれまでよりも強くなった。何が起こっているのか分からぬ間に、よりはっきりとした変化が起きた。
支えてもらわなければ立てなかったドウセツが、自ら立ち上がったのだ。
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