モフモフなでなで系男子達の会話
ミカはベルトと上着とダルを抱えて、授業10分前の教室に駆け込んだ。
「おー!間に合ったなミカ!授業前に馬乗るとか、しんどかっただろ?大丈夫か?」
ドーベルマンを撫でながら、ジェスが話しかけてきた。
ミカは抱いていたダルをひとなでしてから床におろし、ベルトをカチャカチャとズボンに付けながら言った。
「あー、有難う!大丈夫。大丈夫!」
「大丈夫ではない!ベルトも付けずに服装乱れたまま、教室に入ってくるな!ミカエル!」
七三分けの緑の髪、長身にメガネの真面目な雰囲気の青年が厳しい口調で咎めてきた。
彼の肩にいる、白いフェレットも、しかめっ面してキューと鳴いた。
彼の名前はキース・フェレ、同級生でゲームの攻略対象の1人だ。
ミカは攻略本にも載っていた彼の情報を思い出した。
【キース・フェレ】
・父親は武骨で豪快、細かいことは気にしないジルバート・フェレ。
・母親は、妹の出産で亡くなっている。
・母親が亡くなったあとも、仕事でしばらく家に戻らなかった薄情な父親を毛嫌いしているためか、真逆の細くきっちりした性格になったという。
・有能な側近として名高いゲオルギ・ドーベルを尊敬しており、ゲオルギの息子のジェスには嫉妬のためか当たりが厳しい。
・まだ幼い妹と、使獣のフェレットをとても大事にしている優しい一面もある。
(キースの父親のジルバート・フェレって確か、王宮でクロードの部屋をノックもせず開け放った、髭面のあの人だよなぁ·····。見た目も性格も真逆だなぁ。)
ミカがキースの几帳面そうな顔を見ながらぼんやり考えてると、キースが言いつのった。
「聞いているのかミカエル!ここのところたるんでいるぞ!昨日も遅刻ギリギリであったし!今日は服装が乱れているし!·····ジェス!お前も第二ボタンも留めるんだ!」
「えー!ボタンくらい、いいじゃねぇか!今日、意外と暑いんだよ!相変わらず細かいことを、いちいちウルセーな!もうちょっと親父のジルバート卿みたいに、大雑把な方が出世するぜ!」
「父のことは言うな····。私だって君達がちゃんとしていれば、こんな事は言わない。·····父のようにならないと出世できないと言うなら、別に出世なんてしなくていい·····」
キースは苦しそうな表情で言った。キースの肩にいるフェレットが心配そうな声でキューと鳴いた。
その様子を見て、ミカは口を開いた。
「キースのように細かいことに気づいてくれる人は組織にはとても重要だよ。·····有能な部下の場合、大雑把な上司の方が上手くいくこともあるけど、この国の貴族の現状を考えると、細かな気配り目配りできる人が出世する方が内政は上手く行くと思う。ミスやトラブルの原因は大抵5Sが徹底できていないところにあるから·····」
ミカは言いながらマズイと思ったが、遅かった。ジェスとキースが同時に言った。
「ゴエスってなんだ?ドSのこと·····じゃねぇよな?」
「ゴエスとは?」
「あー·····以前本で読んだことがあるんだけど、5Sって言うのは、整理、整頓、清掃、清潔、躾のローマ字の頭文字の事だよ」
「初めて聞いたな·····」
「整理、整頓、清掃、清潔は何となく分かるけど、躾ってどういうことだよ?」
「躾は、ルールや規律を守り、習慣づけることだよ。要は、5Sは当たり前のことを当たり前に出来るようになるための標語みたいなもんだけど、それが意外と難しいんだよね。·····現に私は、昨日は5分前行動が徹底できてないし、今朝は清潔が保てない服装だった訳で·····こういう時にミスやトラブルが起こりやすいから、何か根本から変えないと行けないんだよね。·····たぶん自分のキャパ以上のことをやろうとしてるせいかな·····」
「授業前に馬を乗ってきたと、ジェスと話しているのが聞こえたが、本当に大丈夫なのか?体力的に厳しいのではないか?」
キースが心配そうにミカに聞いた。
「大丈夫だよ。そっか、キースは最近私の様子が変だから、心配してくれて声掛けてくれたんだね。ありがとう、キースは優しいね」
キースは照れて少し顔を赤らめ、照れ隠しに肩にいるフェレットを撫でながら言った。
「いや·····別に·····それにしても、授業前に馬に乗るなど、ウェイド先生の許可はとれているのか?」
「それなら大丈夫だよな!昨日の夕方、ミカとクロでウェイド先生の許可取りに職員室に行ったもんな!俺は正直、許可おりないと思ってたから驚いたぜ!さすがだなミカ!」
「いや、あれは私だけでは無理だったよ。ほとんど全部クロードのお陰だよ。クロードは交渉が巧みだね。驚いたよ。相手の承認欲求を満たしつつ、メリットと、やらなかった場合のデメリットを提示して上手く交渉してくれたから·····」
「クロはご令嬢相手だとヘタレ王子だが、おっさん相手だと途端に有能な王子になるからな!·····おっと、オリバー先生のお出ましだぜ!」
ミカは自分の席につきながらクロードの席の方を見ると、クロードは窓際の自分の席に座り、机の上の黒鷲を撫でつつ静かに読書していた。
陽の光を浴びてキラキラ光る髪と伏し目がちの目と長い睫毛、その端正な顔立ちをずっと眺めていたいような不思議な感覚にミカはとらわれたのだった。
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