七色若葉と前向き紅葉~幸せは想い込みから始まる~

拉麺美味

第1話 じいちゃんが死んだ

俺は幸田幸広(こうだゆきひろ)16歳。

今年の春から高校2年生に進級する。


小学2年の頃、両親を事故で亡くしてから、じいちゃんと2人暮らしをしている。


言わばじいちゃんが育ての親みたいなものだった。


口数も少なく、厳しい人だったけど、大好きだった。


俺をここまで育ててくれた。


俺は昔から運が悪く、小さな頃に両親を亡くした自分の運命にも絶望していた。


そんな中でもじいちゃんと暮らせたことは

俺の中で唯一、幸運と言えることだった。


そんな大切な存在であるじいちゃんが死んでしまった。


今日も学校に行く時、玄関で火打石のようなものをカンカンと鳴らして送り出してくれた。


俺はいつの時代だよ!と思いながら毎朝家を出ていた。


恥ずかしく思っていたが、じいちゃんなりの気遣いであることはわかっていた。


結局、ありがとうと伝えることも出来ないまま、じいちゃんは死んでしまった。


俺はいつも通り、じいちゃんに見送られて家を出た。


午前の授業を終え、お昼にじいちゃんが作ってくれたお弁当を食べた。


毎日お昼はじいちゃんお手製のお弁当だった。


煮物系が多く、友達からはバカにされることも多かった。


ハンバーグやエビフライも食べたかったがじいちゃんの作っている姿を思うと、とても言えなかった。


お弁当を食べ、午後の授業を受けていた時だった。


何故だか、胸がざわざわして嫌な予感がした。


俺は昔から運が悪く、大きいこと、小さいこと関係なく不幸なことが起こる前にはこうやって予感がする。


虫の知らせとも言うのであろうか。

天性のものなのかわからないが不幸察知能力には優れていた。


小学校の時に両親が死んだ時も震えが止まらない程ガタガタして、気分が悪くなった。


時間が経つにつれ、気分が悪くなっていく。

今回もあの時に近い、いや、同じくらいに感じていた。


しばらくすると教室に別のクラスの先生が入ってきて俺を呼んだ。


[幸田!ちょっといいか?]


オレは教室の外に出た。


[落ち着いて聞いて欲しいんだが、おじいさんが倒れて病院に運ばれたそうだ。

今日は早退していいから早く病院へ行きなさい。]


[え、じいちゃんが!

わかりました!ありがとうございます。]


[タクシー呼ぶから待ってなさい]


[すみません。ありがとうございます。]


あんなに元気だったのに...。

今朝も変わらず見送ってくれたじゃんか。


荷物をまとめて正面玄関にきた。

青かった空には雲がかかり、まるで、俺の今の心境を表すかのようにどんよりとしている。


しばらくしてタクシーが到着した。

[市立総合病院までお願いします。]


タクシーで病院に向かう車内でずっと外を見ていた。

暗い空からは大粒の雨が降り注いでいた。


病院に着いた後、案内されて病室に入った。

じいちゃんは人工呼吸器を付けてベッドの上に寝ていた。


病室に医者と思われる人物が入って来た。


[初めまして、今回幸田さんを担当させていただいた徳永です。

現在の状況を説明したいのですが、ご家族の方ですか。]


[はい、孫の幸広です。]


[他にご家族の方はいらっしゃいますか?]


[いいえ、家族は俺だけです。]


[そうでしたか。]


徳永は心が締め付けられるほどかわいそうな

気分になった。


他に家族がいれば良いと思ったが、これから

伝えることは彼にとって残酷なことだった。


[じいちゃんの容態はどうなんでしょうか。]


少しうつむき加減の徳永が話し始める前に俺は聞いた。


[非常に残念ではありますが、もって数時間です。

頭の血管が切れてしまっていて、出血が酷く、手の施しようがない状態です。]


......。

俺は絶句した。


先生と看護師は部屋から出ていった。

じいちゃんと最後の時間を、この静かな病室で過ごすことになった。


意識が戻らずそのまま息を引き取ることもあるそうだ。


意識が戻る確率は50%程らしい......


どれだけ時間が過ぎただろうか。

じいちゃんと過ごした日々が走馬灯よように頭を駆け巡っている。


その時だった。

じいちゃんの手が少し動いたことに気付いた。


[じいちゃん!!]


じいちゃんは静かに目を開けて俺を見ながら今にも消えそうな小さな声で言った。


[幸広や、心配かけて悪かったなぁ。

自分の体は自分が良く分かってるさ。

もう長くないこともな]


[何言ってんだよ!じいちゃん!

俺はまだじいちゃんに何一つ恩返し出来てないよ!


これからたくさんじいちゃん孝行するから、また一緒に暮らそうよ。]


[ありがとう、幸広は本当に優しい子に育ってくれた。

じいちゃんはお前と暮らせただけで幸せだった、それが何よりの生き甲斐であり、宝物だったよ。]


俺は堪えていた涙を我慢することが出来なかった。


[大したこともしてやれなくて済まなかったね、親がいなくなったお前をきちんと育てないといけないと思って厳しくしてしまったこともあったけど、じいちゃんはお前がかわいくてかわいくて仕方なかったんだよ。]


涙でじいちゃんの顔が見えなかった。


[じいちゃんが俺を可愛がってくれてるのはわかってたよ。

俺もじいちゃんが大好きだよ。]


じいちゃんはとても穏やかに笑った。


[お前はもっと自分に自信を持ちなさい。

お前の名前は誰よりも幸せになるようにと願いを込めて両親が付けた名前なんだよ。


お前には良いことがたくさん起きる。

名は体を表すんだ、昔からよく言うだろ。]


じいちゃんは時折に苦しそうな顔をしながら話している。


[じいちゃん、こんな時まで俺のそういう話はいいよ。]


[幸広や、頼むから伝えさせておくれ......。

お前は自分は運が悪いと思っていて、どこか人生に諦めを感じていることは知っているよ。


だがな、お前は誰よりも運は良いし、誰よりも幸せになれるんだよ。


人生はな大小関わらず良いことも悪いことも必ず起こるようになっていてね、お前にも良いことはたくさん起こっているはずなんだ。


お前は自分が不幸だと思っているから良いことよりも悪いことに気持ちを向かせているから悪いことの記憶ばかりが残ってしまう。


常に前向きで考えるようにするんだよ。

そうしたら今よりも、もっと明るく幸せな人生に変わっていくからな。]


普段から厳しいじいちゃんがすごく優しい言葉で話してくれている。


じいちゃんが俺に向けていた本当の眼差しはこんなにも暖かく優しい目だったんだ。


[死んだらあの世で、ばあちゃんやお前の両親にも会えるだろう。

幸広はすごく良い子に育ったと報告出来るよ。]


[じいちゃんはまだ大丈夫だよ。

そんなこと言わないでくれよ......。]


涙が溢れてくる。


[俺を1人にしないでくれよ。

おいていかないで......。]


[大丈夫、お前は強い子だ。

じいちゃんがいなくても生きていける。


じいちゃんはお前に何もしてあげられなかった、他の子が同じ歳に色んな行事や経験するのにお前にはそれもさせてあげられなかった。


他の子と同じような経験をさせてあげられなくてごめんな。]


[いいんだよ、俺はそんなこと気にしてないから、じいちゃんと一緒だったらそれで楽しかったからさ。]


[ありがとう幸広......。

じいちゃんはいつもお前の幸せを願っているよ。

いつもお前を見守っているからね。]


じいちゃんが苦しそうな顔をしている。


俺は急いでナースコールを押した。


[幸広......、今まで本当にありがとう。]


[じいちゃん!!]


急いで看護師と先生が病室に入ってきた。


......懸命な処置の甲斐もなく、じいちゃんは死んでしまった。


そして俺は本当に一人ぼっちになった。

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