52話 アイスドラゴンから幼体を貸してもらいました

 豪華馬車に揺られて俺達はガリガリ氷山へと向かう。


 俺も初めて行くのでどんな所かは予想できない。


 しかし寒いのは間違いないだろう。



 「今から着込む方がいいわよね?」

 「ああ。もうすぐ着くからな」

 「寒いのはいいんだけど、吹雪とか大丈夫よね?」

 「分からない。だけど遭難は回避できる。俺がロードする」

 「流石ラーク。本当に助かるわ!!」



 俺のセーブ&ロードがあれば遭難は絶対にしないだろう。


 但し何度もやり直す羽目になりそうだ。



 「そろそろご到着致します。準備のほどを」

 「分かった。よし着込んでホットドリンクの準備を」

 


 俺達はガリガリ氷山へと到着する。


 このガリガリ氷山は決して標高は高くない。


 だが近づくと徐々に吹雪が増している。



 「ねえラーク、アイスドラゴンって一匹じゃないよね?」



 ナーフィが聞いてくる。


 何故か興奮している。



 「ああ一匹じゃない。それにあいつらドラゴンは常に一定期間で移動する。偶々このガリガリ氷山に滞在しているだけだ」

 「そっかー。会えるといいな!!」

 「呑気だな。怒らせる可能性もあるんだぞ」

 「優しいドラゴンなんでしょ。話し合えば協力してくれるんじゃない?」

 「どうだろうな」



 アイスドラゴンは確かに心優しいドラゴンだが、流石に自分の子供を誘拐されるのは看破できないだろう。


 借りるだけという交渉がどこまで続けられるか。



 「ご到着致しました。ここからは馬車では行けませんので、終わり次第魔笛を吹いてください」

 「了解した。御苦労だった」

 「御武運を祈っています」

 「ありがとう」



 俺は魔笛を受け取る。


 豪華な馬車は去っていく。


 恐らく近くで待機しているのだろう。



 「凄い吹雪ですね!!」

 「ああ。絶対遭難しないように俺から離れるなよ」

 「はい!!」



 何故嬉しそうなんだアリス。


 そして他の皆も。



 俺達はホットドリンクを飲む。


 ホットドリンクの効果時間は一時間程度。


 一人数本は飲める分は冒険者ギルド側から貰って来たので行き帰りも寒さには十分耐えられるはずだ。


 問題は吹雪だけだな。



 「セーブ」



 =========================


 スロット1 ガリガリ氷山前


 スロット2 デイル冒険者ギルド


 スロット3 空き


 =========================



 俺はスロット1に上書きセーブをした。



 俺達はガリガリ氷山へと登っていく。


 凄い吹雪で前が見えない。



 「うわあああああああああああ!!」

 「おいヴィクトリカ!?」

 「転がるのじゃあああああ」

 「ロード」



 俺はスロット1へロードした。


 危なかった。



 「すまぬ。風に抵抗できんかったのじゃ」

 「いや大丈夫だ。さあもう一回行こう」

 「うむ」



 その後何度もやり直した。


 何度も誰かが下へと落下する。


 時には俺が落下した。


 雪に全身が埋もれて死ぬかと思った。


 だがこのセーブ&ロードのお陰で何とかやり直した。


 全く酷い環境だ。



 「徐々に吹雪が無くなって来たわね」

 「ああ。頂上に近づけば近づくほど吹雪が弱まってきているな」

 「もう少しなんじゃない?」

 「ああその筈だが」



 俺とリアが会話していると、ネールが俺達に声を掛ける。



 「ねえ頂上から何か聞こえる」

 「どんな内容だ?」

 「戦ってる音だ」

 「他の冒険者か!?」

 「分からないけど行ってみよう!!」

 「ああ」



 俺達は急いで頂上へと向かう。


 頂上へ辿り着くと他の冒険者がアイスドラゴン討伐を行おうとしていた。


 三人組のパーティーが戦っている。


 ごつい体型の巨漢の男。


 細い剣を持った細身の男。


 杖を持った太った眼鏡を掛けた女。



 この三人がアイスドラゴン討伐に挑んでいる。


 アイスドラゴンは強い。


 だが心優しいアイスドラゴンは人間相手でも本気を出していない。


 ここはアイスドラゴンに恩を売ればワンチャン幼体を貸してくれるのでは?



 「よしアイスドラゴンを助けるぞ!!」

 


 俺の言葉を聞いて俺の意図を汲み取る。


 皆力強く頷いた。



 「セーブ」



 =========================


 スロット1 ガリガリ氷山前


 スロット2 ガリガリ氷山頂上


 スロット3 空き


 =========================



 俺はスロット2に上書きセーブをした。


 これで万が一があっても大丈夫だ。



 「ラフレアバフを頼む」

 「はーい」



 ラフレアがバフを撒く。


 

 「攻撃力アップ」

 「防御力アップ」

 「スピードアップ」



 アタッカーの三人が恩恵を受ける。


 俺達に気づいた向こう側の冒険者が余裕なさそうな声で牽制する。



 「邪魔すんじゃねえ。俺達の獲物だぞ!! この糞ガキ共があああ!!」



 いやそんな事言われても俺らにとってはお前らが邪魔なんだよ。


 知るかボケ。



 「リア、ヴィクトリカ、ネール、頼む」

 「オッケー」

 「うむ。任せるのじゃ」

 「分かった」



 三人がラフレアのバフの恩恵を受けて、更に強くなり、俺達の邪魔になる冒険者目掛けて戦う。


 冒険者同士が殺しあっても別にペナルティはない。


 むしろ自然なことでもある。



 「はああああああっ!!」

 「とりゃああああっ!!」

 「うらあああああっ!!」



 三人の攻撃がそれぞれ相手冒険者にヒットする。


 一人は首をダイヤモンドの剣でスパっと切られて死亡した。


 もう一人は心臓を貫かれて死亡する。


 そして細身の男は俺の目の前に吹っ飛んできた。



 「この糞冒険者が。邪魔しやがってえええええ!!」

 「じゃあな。おらっ!!」

 「うわああああああああああああああ!!」



 俺は思いっきり蹴って頂上から蹴落とした。


 運が良ければ生きているだろう。


 まあこれで邪魔者はいなくなった。



 「大丈夫かアイスドラゴン?」

 「何故貴方達は私を助けて?」

 「恩を売りたかっただけだ」

 「変な人たちですね。一体何がお望みですか?」

 「アイスドラゴンの涎と息吹が料理大会に必要なんだ。必ず返すから貸してほしい」

 「それは子供を貸してほしいという事ですか?」

 「無茶は承知だ。だが心優しいアイスドラゴンと争いたくはない。それに今の俺達で勝ち目があるとも思わない」

 


 俺の言葉を聞いてアイスドラゴンは目を見開く。


 巨体な体。巨大な尻尾。巨大な翼。


 全身が水色のドラゴンだ。


 喋り方からして雌だろう。



 「ふふふっ。面白い方ですね。しかし幼体は、私の子供は貸せません」

 「そうか。じゃあ諦める」

 「簡単に諦めるのですね。どうしてですか? 冒険者でしょう?」

 「勝てる見込みがないからだ。負けはしないけどな。仲間が傷つくところは見たくない」

 「そうですか。お優しいのですね!!」

 「別に優しくねえよ」

 「いいでしょう。私の涎と息吹を差し上げましょう」

 「お前が来てくれるのか?」

 「はい。というのは冗談です」

 「はい!?」

 


 アイスドラゴンでも冗談言うんだな。


 驚いたぜ。



 「貴方達を信じて幼体を貸し出しましょう。必ず返しに来てください」

 「いいのか!?」

 「はい。貴方はとてもいい目をしている。それに恩を返さなくてはいけません」

 「さっきの冒険者の事か? お前なら余裕で倒せただろうに」

 「私は争いは好みませんから」

 「そっか。ありがとう感謝する。必ず返す」

 「ええ信じています!!」



 俺はアイスドラゴンから子供を一時的に預かった。


 そして俺達は深々と頭を下げる。


 アイスドラゴンは温かい目で微笑んだ。


 こうして俺達は無事にアイスドラゴンの幼体を手に入れた。


 さあ急いで戻って涎と息吹を料理人へ。


 そしてその後返さないとな。


 全く忙しいぜ。



 「セーブ」



 =========================


 スロット1 ガリガリ氷山前


 スロット2 ガリガリ氷山頂上


 スロット3 空き


 =========================



 俺はスロット2へ上書きセーブをした。


 

 「さあ戻るか!!」

 「そうね戻りましょう」

 「また来ないとじゃな」

 「そうだな」



 俺達は急ぎガリガリ氷山を下山した。


 帰り道はアイスドラゴンが吹雪を止ましてくれた。


 俺が蹴落とした冒険者は俺達を見ると一目散に逃げだした。

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