19話 貴族に殴られました

 エルンの宿屋で荷物を置いて一息つく。


 ふぅー流石に十五キロ歩いたせいで疲れたな。


 もうだいぶ日が沈んでいる。


 冒険者ギルドに行って登録だけ済ますか。



 「行くぞラフレア」

 「ふあああぁ」

 「眠いのは分かる。だが全員で行くぞ危険だからな」

 「分かってるわよ」

 「セーブ」

 


 俺はエルンの宿屋でセーブをして冒険者ギルドへと赴いた。


 エルン冒険者ギルド支部はアーレイ冒険者ギルド支部より広く飾りつけなども豪華だった。



 「受付嬢に言ってホワイトアリスの登録を済ませた。取り敢えずクエストボード見るか?」

 「見るかな。何か出来そうなクエストあったら先に受注しておきたいし」

 「それにしても人が全然いないな。冒険者が沢山いてもおかしくないのに」

 「そうね不自然ね」



 何故だろうか。


 そんな疑問を抱えながらクエストボードに張り出されたクエストを見る。


 そのクエストボードを見て俺達は納得した。



 「これが理由か」

 「そうみたいですね」



 ==========================


 殺人鬼殺害 金貨3枚


 オーク討伐 金貨1枚


 強盗団殺害 金貨5枚


 ==========================


 

 そりゃCランクパーティーには荷が重すぎるな。


 エルンにはどうやらCランクの冒険者が圧倒的に多いようだ。


 クリアできそうにないクエストは受注しないのが冒険者の鉄則だからな。



 「一度帰るか」

 「そうですね。帰りましょうか」

 「じゃあ――」



 俺が踵を返してクエストボードの前を後にしようとした時、誰かに声を掛けられた。



 「ふははっお前ラークか? 久しぶりだな」

 「デレン!? お前こんな所で何を」

 「お前には関係が無いだろ。それより【デビルメイデン】はどうしたんだ。まさか遂に無能がばれて追放されたのか?」

 「だったら何だ?」

 「はははっそれは傑作だな。お前を初めて見た時からいけ好かない奴だったんだよ」

 「悪いが相手にする気はない」



 俺が仲間と冒険者ギルドを後にしようとした瞬間、デレンが飲んでいたワインの残りを俺の頭にぶっかけた。


 そしてグラスを俺の頭に叩きつけた。



 「つっ」

 「俺は貴族だぞ。礼儀と言うものがあるだろうが」



 デレンは激昂する。


 いや俺が激昂したい気分なんだが。



 「ちょっと内の仲間に何してるのよ」

 「ああ誰だお前。ほおよく見れば可愛いなお前たち。どうだ俺の使用人にならないか。たっぷり可愛がってやるぞ」

 「黙りなさい」



 リアとヴィクトリカが激昂する。


 ラフレアとアリスも鋭い目つきで睨んでいた。


 だが俺はそんな仲間たちを制止した。



 「放っておけ。宿に戻ろう」

 「大丈夫!?」

 「ああこれくらい大丈夫だ。気にするな」

 「ならいいけど」

 「ありがとうなリア、ヴィクトリカ、ラフレア、アリス」



 俺の言葉で皆冷静になった。


 そして俺達は冒険者ギルドを後にしようとする。


 だがデレンは俺に苛立つように言葉を投げる。



 「お前そんな態度で俺を相手にしていいと思うなよ」

 「お前こそ俺の仲間に手を出してみろ。容赦はしないぞ」

 「つっ」

 「二度と俺達に近づくな下種が」



 俺はデレンに冷たく言い放った。


 俺達が冒険者ギルドを後にした後デレンは怒りの余り酒を飲みまくり女を抱いた。



 俺達は宿屋へと戻る。


 宿屋で現在アリスに治療してもらっている。



 「これで怪我は治りました」

 「ありがとう。助かった」

 「それにしても最低な方ですね」

 「ああ貴族だからな。いい貴族より傲慢な貴族の方が圧倒的に多いんだよ」

 「あの人腹立ちます」



 珍しくアリスがご立腹だ。


 よほど怒りが込み上げてきたのだろう。


 俺は自分の為に怒ってくれて嬉しかった。



 「あれ誰なの? 知り合い?」

 「デビルメイデンってパーティーに居た頃知り合った貴族だ。位は男爵」

 「デビルメイデンってあの有名なSランクの!?」

 「言ってなかったっけ。俺一年間だけ所属してたんだ。追放されたんだけどな」

 「驚きだわ」



 デレンは俺が【デビルメイデン】に居た頃知り合った貴族。


 当時から変態趣味で周囲を困らせていた傲慢な貴族。


 酒癖、女癖が悪く皆手を焼いていた。


 特に俺は【デビルメイデン】の中で一番地位が低かったこともあり一時期あいつの雑用係をさせられていた。


 そして俺を無能だと毎日罵倒し暴力を振ってきた。所謂完全に俺を見下していたのだ。


 だから俺はあいつが大嫌いだ。正直もう会う事はないだろうと思っていたがまさかこんな町にいるとはな。


 一体何の為にいるんだ?



 「まあ気を取り直して明日からクエスト受注しよう。難しいクエストが多いけど俺達なら達成できる」

 「そうですね。頑張りましょう」



 俺を心配してくれた皆には感謝しかない。


 ありがとう皆。


 良かった【ホワイトアリス】に所属して。


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