第2話 風花 -最後のメッセージー
白い息を吐きながら
力いっぱい
自転車のペダルを踏みこむ
ダラダラと緩い坂道が続く
丘の上のチャペルまで
君からの最後のメッセージは
結婚の知らせ。
消せないままに
返事できないままに
僕は、ひたすらにペダルを漕ぐ。
僕の働く書店
彼女は頻繁に訪れていた。
背表紙をいとおしむように眺め
丁寧に本を取り出し
パラパラとページをめくる
その一連の所作が美しくて…
いつしか僕は
彼女を心待ちにするようになっていた。
きっかけは、彼女から…。
僕の名札を確かめて
「あなたの『おすすめポップ』素敵ね」と…。
少し低い落ち着いた声は
所作と同様 美しかった。
それから
何度も言葉を重ね…
そのうちに…
何度か体を重ね
すっかり
その気になっていた僕。
最初から
限りなく片思いに近い恋だったのに…。
愛し愛される恋
愛する事に幸せを感じる恋
愛される事が喜びとなる恋。
彼女は、愛される側の人だった。
なのに…
僕は、しくじった。
ささいな口論の末の
「別れよう」
本気じゃなかったのに…。
いや、
本気じゃなかったから…。
彼女を試そうとした浅ましさは
彼女の心を凍り付かせ…
それっきり。
たった一言で、
微妙なバランスで保たれていた恋は終わった。
ウェディングドレスの裾を上品に摘み上げ
チャペルの階段を上る彼女
後姿を見送りながら
「どうぞ、幸せに…」と。
言葉は 白い息になり
空高く舞い上がり
風花となって…
彼女の肩に舞い降りた
今年最初の雪便り…
僕の最後のメッセージ
君の心に届いただろうか。。。
ー完ー
初雪の降った日に。
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