廃墟に佇むホテル~沢村 輝樹支配人
末吉 達也
第1話 廃墟に佇むホテル~求人募集
高齢化率30%を越え街の商店街はシャッター通りとなり、昼夜をとわず閑散としていた。近くに大手の巨大なショッピングセンターが立ち、たいていは車での移動が大半であった。
その為、駅前は無人駅となり、1時間に1本しか電車が来ない為、廃業する駅として上位に入る駅として有名になっていた。
昔は炭鉱の街として、駅前は活気があり、駅前広場には路線バスが通り、駅前のサザンクロスホテルは常に満室だった。当時ははサザンクロスホテルは客室が400室ありサザンクロスホテルにも別館があった。
しかし、炭鉱の閉鎖とともに、人口流失、隣町に大きな駅が立ち、ショッピングモールが出来ると駅を利用する人がいなくなってしまった。
その為、今ではたまに、テレビ番組が取材にきたり、駅前のシャッター通りをつかって映画撮影が行われる事があるがたいていは隣町にある駅前の豪華なホテルに宿泊するのが常であった。
そんな閑散とした駅前には廃墟の街にはお似合いの老舗のホテル(サザンクロスホテル)が客室10室となりながらも立っていた。
『おじいちゃん、そろそろ、ここで頑固にホテルを経営しても利益が出ないから廃業して隣町に引越しした方が良くない?』と常にいうのはたまたま近所に一時的に店を出した沢村 あやめだった。
沢村 あやめは移動式の『花言葉喫茶店』を経営していたがたいていは暇をつぶすような経営状態であった。
1度、「花言葉喫茶」を営業していたがやむを得ず閉店した過去があり、天界から現世に戻り、元太と一緒になったがお互いに取って本当に愛する人を探して再び記憶の消去とともに兄との関係を取り戻したのであった。
そして…新しく「花言葉喫茶~鏡花水月」を開店したのであった。
『大丈夫だよぉ。経営はうまくいっているよぉ。今日は2人が宿泊しているからなぁ。それに、自立支援施設としての機能もしているからすぐには無理だなぁ。』
『解るけど…おじいちゃんの身体が心配なのよぉ。それに私達におじいちゃんがいるのは知らなかったんだから…』
『そうだなぁ…まさか、あやめの母ちゃんに子供がいるとは知らなかったんだよぉ。施設で過ごしていた事は後から知ったからなぁ。その時は…すまなかった。』
『良いのよぉ。お兄ちゃんも心配していましたよぉ。』
『そうかぁ。ありがとう。』
『ところで、支配人候補は見つかったのぉ?また、怖くなって逃げ出す事にならないようにしないと大変な事になるわよぉ…今回は大丈夫?』
『解っているよぉ…だから、今回はアルバイトから人材を育てるつもりだよぉ。』
『そうなんだぁ…。ところで相変わらずに1人ですべてをこなしているのぉ?』
『そうだなぁ…たいていは1人でこなしているかなぁ…』
『大変じゃない?』
『そうではないけど…』
『そうなんだぁ。久しぶりにフロントに立っても良いかなぁ?』
『大丈夫だけど…あっちの世界にはあんまり迷惑をかけるなよぉ。あぁ、そうだぁ…予約リストをもらって来てくれないかい?』
『解った。お仕事ならやむを得ないものねぇ?現実のホテルは閑散としているけどあっちのホテルは忙しいからねぇ?』
『おいおい、それをいうなって、おまえは四六時中両方のホテルを行けるけどなぁ…。』
『あっちのホテルは有名なホテルで敷居が高いから用事がなければ行きたくないって…』
『まぁ、その気持ちは解るけど…予約リストを取りに行ってもらえないかい?』
『もう、今回だけですよぉ。ちょっと、行ってくるねぇ?』
『気をつけてなぁ!あぁ、ところで証明書は持ったかぁ?』
『何、言っているのぉ…。私には必要ないわよぉ。』
『あぁ、そうだったなぁ。』
『お久しぶりです。皆さん、お元気ですか?』
『おぉ!久しぶりだなぁ。』
『元気にしてました?』
『あぁ、元気だよぉ。今日は、夜勤明けですか?』
『そうだなぁ。ここから来たという事は…おじいちゃんのホテルからだねぇ?又、用事を頼まれたなぁ。』
『そうですよぉ。幸雄さんはおじいちゃんのホテルに来た事があるんですよねぇ?』
『あぁ、もちろんあるよぉ。古びたホテルで廃業寸前だけど…あのホテルのおかげで逢えない人に逢えて人生を諦めないで過ごす事が出来たから感謝してるよぉ。』
『あらぁ、あやめちゃんじゃない?』
『お久しぶりです。ゆかりさん。』
『もしかして、半年をかけてお兄ちゃんに逢いに来たのぉ?』
『いえいえ、今日はおじいちゃんのホテルのお仕事で来ましたよぉ。』
『そうなんだぁ…。なら、ゆっくりは出来ないねぇ?』
『そうなんです…寂しいですけど…』
『あぁ!今日はお兄ちゃんの出勤日よぉ。ちょっと、待ってて…。もしもし、フロントです。店長はいらっしゃいますか?』
『ノエルの店長の澤村です。』
『ゆかりさん、どうしたの?12時からの『キリストを囲む会』の件かなぁ?準備は大丈夫だよぉ。100人様分の仕込みは終わり、ノエルのスタッフを宴会場にヘルプで出すけど…』
『もう、違うわよぉ。相変わらず、仕事人間なんだからぁ。あやめちゃんが久しぶりに来たのよぉ。』
『えぇ!マジかぁ。半年もかけてかぁ!逢いたかった!直ぐにフロントに行くねぇ?』
『おぉ!あやめは来ていたのか?『花言葉喫茶店』は大丈夫なのか?半年も休業という事は何かあったのかぁ…。ちょっと、待ってろぉ。最上級の客室を用意するなぁ。』
『ちょっと、ちょっと、違うでしょ?制服着ているでしょ?』
『えぇ?これは、おじいちゃんのホテルの制服だなぁ。という事は…?もしかして?』
『そうよぉ。おじいちゃんのホテルが心配になって近くに『花言葉喫茶』を開いたのよぉ。たまたま、休みだったから、お手伝いしに来たのよぉ。』
『とはいえ、ここに来るのに半年もかかるだろう?』
『えぇ?知らないのぉ?おじいちゃんの経営しているホテルと繋がっているんだよぉ。』
『えぇ!そうなのかぁ…知らなかったなぁ。もしかして…』
『そうだよぉ。』
『おいおい、あんまり行き来きすると、俺の査定にも関わるし、正規のルートで来ないと禁錮刑になるからなぁ。』
『解っているわよぉ。だから、これはお仕事として来ているから正規ルートでしょ?』
『あぁ、確かに正規ルートだなぁ。今度は半年かけてきますよぉ。じゃ、フロントに立ち寄ってから予約リストをもらって帰るねぇ?』
『そうだったのかぁ…。なるほど。おじいちゃんに宜しくなぁ。あやめも無理せずにねぇ?』
『ありがとう。お兄ちゃん。』
『ただいま。』
『おかえり。』
『幸雄さんとあやめさんに逢って来ましたよぉ。むこうのホテルは『キリストを囲む会』などの宴会があるみたいで団体客も入っていて大変そうでしたよぉ。お花見シズーンで1500室の客室も満室みたいです。』
『そっかぁ。そりゃ、そうだろうなぁ。黄泉の国では最上級の老舗ホテル(オリエンタルホテル)だからなぁ。』
『あぁ、そうそう、お兄ちゃんにも逢って来ましたよぉ。ノエルの店長をしているみたいですよぉ。』
『そうかぁ。すごいなぁ。ノエルといえば3つ星レストランだからなぁ。すごい出世だなぁ。大抜擢だなぁ。』
『おじいちゃんはあっちのホテルには行った事があるのぉ?』
『もちろんあるよぉ。1年に1回、予約リストを取りに行く時と、こっちに来るお客様のチェックインとチェックアウトをする時だけねぇ。まぁ、たいていは日帰りだからなぁ…とはいえ、ホテルには三ツ星レストラン『ノエル』の他に和洋中のレストランが3つに宴会場が6つに結婚式場が2つもあり、喫茶店も4つもあり、客室数が1500室のホテルだからすごい事は…知っているよぉ。なおかつ、フランス料理の3つ星レストラン『ノエル』の店長とはすごいなぁ。』
『そうですかぁ。あんまり関心がないなぁ。あぁ、そういえば、面接に来るアルバイトは来ましたかぁ?』
『あぁ、そうだなぁ。そろそろ、来る時間だなぁ。』
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