ルウの涙
でだ。
無事に刺客を返り討ちにした俺は、暫く放置していたレナ&ルウの様子を見るために元いた場所に戻ってみることにした。
「アルスくん! どこ行っていたのですか!? ずっと探していたんですよ!」
元の場所に戻ると、上機嫌な笑みを浮かべるレナが俺の傍に駆け寄ってくる。
「見て下さい! この、素晴らしい成果を!」
自慢気に胸を張るレナの足元には一匹のホーンラビットが置かれていた。
ふむ。
少し驚いたな。
この短時間で、早くも俺の出した課題をクリアーする糸口をつかんだか。
現時点での魔法の実力は、ルウの方が上だと思っていたので、俺としては意外な結果である。
「ワタシの故郷は、山奥にありましたから! 森の中を歩くのは、得意なんです!」
なるほど。レナが短期間で成果を上げることができたのには、そういう理由があったのか。
魔法の実力ではルウに劣るが、基礎的な体力であればレナの方が大きく上回っているのかもしれない。
「やるじゃないか。頑張ったんだな」
「えっ……?」
何故だろう。
俺が素直に褒めてやると、レナは喜びと戸惑いが入り混じった複雑な表情を浮かべていた。
「どうした。何かおかしなことを言ったか?」
「いえ。なんというか意外でした……。アルスくんがワタシを褒めてくれるの、初めてですよね」
お前は俺のことを何だと思っているんだよ。
厳しく教えることだけが優れた指導者というわけではない。
優れた成果を上げた場合、時には褒めてやることも必要だろう。
「ところで、ルウはどうしている? 近くにはいないようだが」
「あれ……? おかしいですね。先程まで一緒にいたはずなのですが……。そういえば、暫く姿を見ていないですね」
ふむ。
どうやら狩りに夢中で、ルウが離れたことに気付いていなかったらしいな。
ルウに限って、危険なことに首を突っ込んでいることはないと思うのだが、万が一ということもある。
この森は思ったよりも、危険みたいだからな。
念のため、ルウの様子を伺いにいくとするか。
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それから十分後。
暫く森の中を探索していると、聞き覚えのある男の声が聞こえてくる。
「ふざけるなよ! その口の利き方はなんだ! 食わせてやった恩も忘れて!」
この声は、ジブールか。
どうやら無駄に声を荒げているようだ。誰と喋っているのだろうか。
「犯罪者の娘を引き取ってやると言っているんだ! 大人しくボクの言うことを聞いたらどうなんだ!」
次に視界に入った光景は、以前の放課後の教室を彷彿とさせる光景であった。
一緒にいるのはルウか。
しかし、犯罪者の娘、というのはどういうことだろうか?
「どうした! 何か言い返してみろよ! 出来損ないの下級貴族が!」
その時、俺の脳裏を過ったのは、以前に放課後の教室でルウが勢い良く頬を叩かれている光景であった。
やれやれ。
このままジブールの暴走を許したら、また同じようなことになるかもしれないな。
「おい。そこで何をしている」
そう判断した俺は、わざと大きく足音を立てて、二人の前に姿を見せてやることにした。
「な、何故だ……。どうしてお前がここに……!?」
俺の姿を目の当たりしたジブールは、驚愕の表情を浮かべていた。
随分と不用心な聞き方をするのだな。
その言い方では、まるで刺客を放ったのが、自分だと自白しているようなものではないか。
「どうした? 俺がここにいると、何か不自然なことがあるのか?」
「~~~~っ!」
核心を突いた質問を投げてみると、ジブールは益々と狼狽しているようだった。
「チッ……。興が削がれた。今日はこれくらいで勘弁しておいてやる……!」
そんな捨て台詞を残したジブールは、自慢のロングヘアーを翻して、俺たちの傍を離れていく。
ジブールとしては、刺客に命令をして完全に俺のことを殺したつもりでいたのだろうな。
自分の目で確認もせず、他人を素直に信じられる性格は、ある意味では羨ましい限りである。
「ごめんね。アルスくん。変なところを見せちゃったよね……」
表情に影を落としたルウは、目に浮かんだ涙をそっと手で拭う。
「私、もう行くから……」
やれやれ。
涙が出るほど辛いのに、全て独りで抱え込もうとするとは強情な女である。
「おい」
なんとなく放っておくのはまずいような気がしたので、立ち去ろうとするルウの肩を掴んで呼び止める。
「話してみろよ。何があったのか」
「…………」
面倒ではあるが、致し方あるまい。
このまま放っておくと、コーチの仕事にも影響が出るかもしれないな。
だから俺は以前から気になっていたルウの家庭事情について、色々と聞いてみることにした。
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