特別な訓練



 それから。

 何はともあれ、俺たちの付与魔法の訓練は始まった。


「てい!」「やあ!」「とりゃ!」


 俺のアドバイスを受けたレナとルウは、それぞれ思い思いの方法で紙切れを的に向かって投げ続ける。

 だがしかし。

 二人が投げた紙切れは、五メートルもしないうちに落下することになった。


「もっと魔力の密度を高めていかないと飛距離は伸びないぞ。物質の構造を理解して、最適なポイントに魔力を流すんだ」


やれやれ。

この感じだと課題の達成までには、暫く時間がかかりそうだな。


「も、もうダメ……。限界です……」

「私も……。これ……思っていたより、だいぶ辛い……」


 訓練を始めてから三時間くらいが経過しただろうか。 

 慣れない付与魔法も使い続けた結果なのだろう。

 単なる魔力切れとは、少し違う。

 集中力を切らした二人は、完全に疲弊しているようであった。

さてさて。

 どうしたものか。

 ここで彼女たちを見放すことは簡単であるが、それも少し勿体ないな。

 何でも王立魔法学園では、これから先、パーティーを組んで試験を受ける機会が増えてくるらしいのだ。

 長い目で見ると二人を鍛えた方が、俺にとっても利益になる場面も出てくるだろう。


「ねえ。アルスくん。何か、修行のモチベーションを保つコツってあるのかな? こう地味な作業が連続すると、精神的にキツイものがあるよ……」

「コツか……。そうだな……」


 考えてみれば、俺にとっては無縁の悩みであった。

 裏の世界で戦いを続けてきた俺には、『強くならなければ殺される』という前提条件があったのだ。

 生死にかかわる問題を抱えていない人間にとっては、単純作業の繰り返しは辛いものがあるのかもしれない。


「ふむ。それなら、先に課題をクリアーした方が、丸一日、俺から好きな指導を受けられる、という条件を付けてみるのはどうだろう?」

「好きな指導……!?」

「丸一日……!?」


 俺の思い過ごしだろうか。

 俺の言葉を受けた途端、二人の目の色が変わったような気がした。


「アルス君! それは本当なのでしょうか!?」

「好きな指導って、何を頼んでもいいの!?」


 なんだか分からないが、二人がヤル気になってくれたようで何よりである。


 こうして新たな条件を追加したことにより、二人のトレーニングは、益々と効率的に進んでいくことになるのだった。

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