VS 敵幹部2



「そうか……。思い出した……! その動き、その銃捌き……。お前、裏切り者の死運鳥(ナイトホーク)だな!」 



 俺の名前を知っていたか。


 死運鳥の象徴である鳥の仮面を被っていなくても、意外と正体がバレるものなのだな。


 事前にレナを逃がしておいたのは正解だった。


 もしもこの場にレナがいれば、更に面倒なことになっていただろう。



「庶民でありながら貴族に味方をする、どっちつかずのコウモリ野郎がっ! 待っていたぜ! お前を殺せるその時をなぁ!」

 


 ふう。


 裏切り者、とは酷い言い草だな。


 逆さの王冠(リバース・クラウン)に所属するメンバーの大半は、俺と同じ魔法を使える庶民、つまりは『呪われた血』の人間であるらしい。


 コイツ等からすると、俺のような人間が貴族の味方をするのは、許せないことなのだろう。


 続けざま、ニヤリと笑った白髪の男は、自らの頭部を指さして意外な言葉を口にする。



「この額の傷を覚えているか! 3年前にお前から受けたものだぜ!」



 そうだったのか。


 3年前、ということは、この男、オズワルド事件の生き残りか。


 あの事件は《ネームレス》と《逆さの王冠(リバース・クラウン)》が入り乱れた全面戦争だったからな。


 生憎と俺の方には記憶がないのだが、傷を受けた本人からすると忘れられるはずがないだろう。



「この屈辱は、1000倍にして返してやるぜ!」



 啖呵を切った男は、再び魔法陣の構築を開始する。


 んん?


 今度の攻撃は、今までのものとは、少し毛色が違うようだ。


 何を思ったのか、男は自らの体に氷を纏い始めたのである。



「禁術発動――《氷装空斬》!」



 初めて見る戦闘スタイルだ。


 氷の鎧を纏ったことにより、小柄な男の体は、見違えるように大きなものになっていた。



「この攻撃、受けきれるかあああぁぁぁ!」



 地面を滑った男は、2本の氷の刃を交互に振り回して攻撃を仕掛けてくる。


 通常、人間の体は、氷の接触に長時間、耐えられるようにできてはいない。


 魔力で肉体を強化しても、それは同じことだ。


限度がある。


 おそらく、この男は、並み外れて頑丈な体質なのだろう。



「覚えておけ! 不死身のジャック! お前を殺す男の名前だ!」



 不死身のジャックか。


言い得て妙な通り名だな。


 俺の攻撃を受けて、尚、こうして生きて立ち向かってくるとは、大した打たれ強さである。



「そら! もらった!」



 迫り来る2本の刃を躱し続けることは難しかった。


 無理やり銃身で攻撃を受けようとすると、ジャックの氷の刃によって勢い良く弾き飛ばされることになった。



「クヘヘ! どうしたよ! これで得意の銃はもう使えねえなあ!」



 やれやれ。


 よりにもとって俺から銃を弾いてしまうとは、運のない男である。



「なあ。どうして俺が仕事で銃を使うか、教えてやろうか?」


「…………?」



 武器を失っても俺が顔色一つ変えないことを不審に思ったのだろう。


 ジャックは攻撃の手を止めて、警戒モードに入っているようであった。



「手加減ができなくなるからだ」



 無論、現場に魔力の痕跡を残したくないという面もあるが、一番の理由はコレである。


程良く力をセーブして敵を倒すには、銃という武器は都合が良いのである。



「抜かせっ!」



 俺の言葉を挑発と捉えた男は、再び、間合いを詰めて攻撃を仕掛けてくる。



「ウグッ――!」



 だがしかし。


 次の瞬間、男の顔は苦痛に歪むことになる。


 ラッシュに次ぐ猛ラッシュ。


 連続攻撃を受けた男は、身に着けていた氷の鎧を徐々に剥がしていくことになった。



「バ、バカな……! 一体、何を……!?」



 ジャックからすれば、さぞかし不可解な光景に映っただろう。


 この攻撃は魔法ですらない。


 俺は魔法になる前の『魔力の塊』を飛ばして、相手に攻撃を仕掛けていたのである。


 もっとも、ダメージ効率は悪いので、相当な実力差がない限りは、使えるものではないんだけどな。



「火炎玉(ファイアボール)」



 魔力飛ばしで、相手の足止めをした後は、普通の魔法で攻撃をすることにした。


 俺が使用したのは火属性の基本魔法である《火炎玉》である。


 ただし、入学試験の時に使ったような手心を加えたものではない。


 実戦用にカスタマイズした本気の魔法である。



「んな……! でか……!」



 ジャックが驚くのも無理はない。


 俺が使用している《火炎玉》は、通常の5倍を超えるサイズを誇っているのだ。



「ウンギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」



 俺の《火炎玉》をまともに受けたジャックは、大音量の悲鳴を上げていた。


 瞬く間のうちに残った氷の鎧を溶かしていくことになった。


 ふうむ。


 事前に纏っていた氷の鎧のおかげで、致命傷を逃れたか。


 だが、勝負の決着は付いたのも同然だろう。


 立て続けに攻撃を受けたジャックは、既に虫の息になっているようだった。



「クソッ……! 覚えてやがれ! この借りは何時か1000倍にして返してやらぁ!」



今までの戦闘で形勢の悪さの差を悟ったのだろう。


大きく後ろに飛んだジャックは、逃走を開始したようであった。


ジャックが逃走するのと同時に空高くより生物が飛来する。

 

 ワイバーンだ。


 竜種の中では小型でありながらも人間によく懐くワイバーンは、移動手段として裏の世界で用いられることの多いモンスターであった。


 なるほど。


 魔物を使って空に逃げるつもりなのか。



「いや。今すぐに忘れて良いぞ」



 お前はここで俺に殺される運命なのだからな。


 俺からすれば背を向けて逃げる敵に止めを刺すことほど簡単なことはない。


 敵が上空に逃げてくれるなら、魔法陣を構築するための時間を幾らでも稼ぐことができるからな。



「火炎葬槍(グングニル)」



 そこで俺が使用したのは、火属性(超級)に位置する煉獄であった。


 合計で7つの追加構文を用いて作ったこの魔法は、入学試験の時に俺が使用したのと同一のものである。



「なにイイイイイイイイイイイィィィ!?」



ジャックからすると俺と十分に距離と取って油断をしていたのだろうな。



「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」


 

 背後から巨大な炎に飲まれることになったジャックは、断末魔を残して、黒焦げになって海の中に沈没していく。


 それにしても予想外だったな。


こうしてまた《逆さの王冠(リバース・クラウン)》のメンバーが現れて、悪事を働くことになるとは。


 暗黒都市を取り巻く環境は、再び、悪化を遂げていくことになるかもしれない。


 消し炭となった男の最後を見届けながら、俺はそんなことを想うのであった。









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