4-005

「だって――昔、フランケンシュタインが出た時、俺には見えなかったじゃん!?」

 大の男として、森の真ん中で大声を出すことの恥ずかしさみたいなものがないわけではない。けど、さすがに、怖すぎだろ。

「……以前のフランケンシュタイン、あれは本の付喪神だったろう? 肉体を持っているものじゃない。いや、『本』こそが肉体だったと言えるかもしれないが――とにかく、本物の死体が歩き回っていたわけじゃなかった」

「つーことは、なに? 木庭袋さんは、最初から、もう死んでて、ゾンビだったってこと?」

「ゾンビというか……そうだな、たしかに。なんで動いてたんだろう?」

「怖! 俺さあ、なんかこの仕事してて初めてこんなに怖いと思ったかも……」

 怪異ってのは、姿を現した時には確実にそれと分かるものだ。フランケンシュタインの姿をしていたり、足が無かったり、あと、あと……いや違うか、そういえば『後から思えば実は幽霊だった』って経験を、したことがないわけでもなかったが……。

「だって、普通に会話出来てたけど?」

「本人も、死んだことに気が付いていなかったのかも。霊にはよくあることだ」

 よくあってもらっちゃ困る。

「――ていうか、俺はともかくさ、なんでお前気付かねーの?」

「おそらく、俺が想像していたよりもずっと、菌類の霊が大きかったからだ。ぼんやりこの森全体に怪異が宿っている――と、当初俺は考えていた。その中に木庭袋さんの瘴気も隠れてしまっていたんだと思う」

「木を隠すなら森の中ってやつ?」

「死体を隠すなら土壌の中、という言い方をすると、なんだかそれらしいな」

 冗談じゃない。というか、こんなんどう解決すりゃあ良いんだ?

「……なんか、分かんなくなってきたんだけど。木庭袋さん探したところで、どーにかなる問題じゃないじゃん、こんなの」

「ああ。俺もほんとにそう思う」

 二階もどうやらお手上げのようで、立ち上がる素振りを見せず座り込んだまま悩み続けている。

「んーと、木庭袋さんの身体って、帰ってくる?」

「いつ頃亡くなったのかは分からないが――俺の経験上、死んだばかりでああはならない。おそらく命日は一か月以上前じゃないかな……いずれにせよ、ここから先は俺達の仕事じゃない」

 ああ、たしかに。この森に、死体がひとつ埋まっているとして、それを掘り出すのは便利屋や霊能力者の仕事というよりは、警察の仕事だろう。

「――通報しよう。上手い言い訳を考えられるといいんだが」

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