第104話 良き王とは
昨日、注目作品に選ばれまして、多くの方にフォローをいただきました。
PVも上がりまして、過去最高を更新しております。
楽しんでいただければ幸いです。
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アストリア、エイリナ姫が先導し、ユーハーン王と、殿にレキ&レニが続く。
風の聖剣で作った血路に飛び込んだ。
「何をしておる! 逃がすな!」
勇ましい声を上げたのは、ラバラケルだ。
自分は驚いて、腰砕けになっている癖に、指差しながら指示を出している。
シュバイセルも陣形の再編に躍起になっていた。
そのおかげか、予想よりも早く兵士達は襲いかかってくる。
アストリアとエイリナ姫の前に槍を構えた兵士が現れた。
急ブレーキをかけようとしたが、その必要はなかった。
「ぐおおおおおおおお!!」
銀狼が戦場を駆ける。兵士に襲いかかると、簡単に突き飛ばしてしまった。
ひっ! ともう一方の兵士が悲鳴を上げつつ、槍を構える。
その頭上から急襲したのは、野兎族の女性だ。
思いっきり兵士の顔面に蹴りを見舞うとあっという間に昏倒させてしまう。
「こっちや!」
突如、現れたのはロクセルだ。
側にリッピーがいて、「助けに来たよ」とウィンクをする。
その態度に、エイリナ姫が目くじらを立てた。
「『こっちや!』じゃない! 遅いわよ。打ち合わせでは退路の確保は、あんたらの役目でしょうが!」
と一喝する。
そのあまりの迫力にロクセルは、ぺたんと耳を倒した。
「しゃーないやんか! 思ったよりも兵武省の動きが早かってん!」
「あいつら、もうすでに宮廷をぐるりと囲んでるよ」
「助けに来ただけでもありがたいと思ってほしいもんやわ」
「颯爽と助けに来た割りには、泣き言?」
エイリナ姫は目を細める。
「心配するなや、姫様。助けるのはここからや!」
兵士達が襲いかかってくる。
そこでロクセルが取り出したのは、また爆弾だ。
手早く導火線に火を付ける。
その威力は兵士も十分わかっているだろう。わっと足を止めた。
ロクセルは爆弾を放り投げる。
慌てて兵士たちは後退したが、爆弾から現れたのは爆煙ではない。
白い煙だ。
爆発的に宮廷内に膨れ上がる。たちまち宮廷は煙幕の中に隠れてしまった。
「ごほ! ごほ! ごほ! ええい! 何をしている! 探せ!!」
シュバイセルは涙目になりながら、兵士に指示を出す。
それは虚しく宮廷に響いた。
アストリアたちは一先ず倉庫らしきところに逃げ込む。
ロクセルの言う通り、宮廷はぐるりと囲まれていた。
「あかん……。残しておいた
「他にはないのか?」
アストリアが顔を強ばらせた。
ロクセルは首を振る。
「ない」
「颯爽という言葉を返してほしいわね」
エイリナ姫はがっくりと項垂れた。
その時だ。外で物音がする。さらに多くの鉄靴が響いた。
「不味いよ、ロクセル! 囲まれたよ!」
リッピーがピンピンと耳を伸ばした。
その声を聞いて、アストリアたちの顔がより一層強ばる。
レキとレニは、ユーハーン王を背にし、得物を抜いた。
倉庫の大扉が開くと、胸を反らし、不敵な笑みを浮かべて、ラバラケルとシュバイセルが現れる。
「陛下、ここにいるのはわかっております。潔く出てこられることをオススメする。求めに応じないなら、ここに火をかけます。あなたを最後まで慕ってくれた者たちまで死ぬのは、忍びないでしょ」
ラバラケルはかつての君主を恫喝した。
物陰から聞いていたユーハーン王は決意する。
「私は行きます」
「“
「陛下!!」
声を上げたのは、レキとレニだった。
まだ子どもといっても差し支えない彼らの頭を、ユーハーン王は優しく撫でる。
その表情はさらに穏やかで、窮地の渦中にいる者の顔とは、とても思えなかった。
「レキ……、レニ……。フィーネルがいない間、よく私に仕えてくれました。礼を言います」
レキとレニはユーハーン王の袖を引っ張る。その手をゆっくりとほぐすように解いたのは、陛下自身だった。
「陛下……」
アストリアもまた立ちはだかる。
「わかっています。たとえラバラケルが私を討ったとしても、あなた方に手心を加えるつもりはないでしょう。ラバラケルもシュバイセルも、容赦のない性格です。どんな些細な反逆の根も逃さないはず……」
「では……」
「あくまで時間稼ぎにしかなりません。その間に
次にユーハーン王はロクセルとリッピーの方を向いた。
すると、頭を下げる。
「ロクセル殿、リッピー殿……。ご助力感謝する。そして私が頭を垂れることで、あなた方が受けてきた数々の仕打ちが許されるとは思っていない。だが、どうか……未来において、エルフと獣人が手を取り合える世界の一助になってほしい」
「…………」
ロクセルも、リッピーも何も言わなかった。
前者は少し睨むように王を見つめ、後者は少し戸惑っている。
2人に王の願いは聞き届けられたかどうかわからなかった。
ついにレキとレニ、さらにアストリアの反対を押し切り、ラバラケルの前に踊り出る。
そこにレキとレニが続こうとしたが、その首根っこを捕まえたのはロクセルだった。
「行ったら、あかん……」
「どうして!」
「ふざけるな、獣人!」
「黙れ、エルフ。わいは知ってる。ああいう目ぇした人間は、誰よりも強いって」
その時、ロクセルの目は鬼気迫るものだった。
それまで大人の兵士を前にしても、勇敢に立ち向かっていたレキとレニの表情に恐れが浮かぶ。
小さな身体がふるりと震えた。
「さすがユーハーン陛下……。次代の賢君と呼ばれていただけはありますな」
ラバラケルは、倉庫の真ん中に出てきたユーハーン王を見て笑う。
一方、王は首を振った。
「それは皮肉かな、ラバラケル。私は賢君などではない。宮廷すら1つにまとめられず、国の正しき方向を見誤り、結局悪神の言いなりになってしまった。……結果、それを傍らで諫め続けた娘の命を失うことにもなった」
「ぐふふふ……。確かにそうかもしれませんな」
「だが、1つはっきりしていることがある」
「うん?」
「君は私以上の愚王になる。君のビジョンには未来がない。ただ己の欲のまま権力を振りかざしたいとしか考えていないように見える。ラバラケルよ。そう思っているなら、君は改めるべきだ。権力の頂点に立つというのは、そう甘いものではない」
「あなたに言われたくありませんな」
「ふふ……。これは1本取られた。その通りだ。私に言う権利はない」
ユーハーン王は目を瞑った。
上を見上げたが、やや誇りっぽい屋根があるだけだ。
「良い君主とはなんだったんだろ……」
ユーハーン王は呟く。
子どもの頃から麒麟児ともてはやされ、次代の賢君と呼ばれてきたユーハーンにとって、「良き王」とは生涯を通じた命題であった。
そこにすらりと剣を鞘から抜く音が聞こえる。
「お覚悟を、陛下……」
「すまない、フィーネル。至らぬ父で」
「ご心配なく。今すぐ娘さんの下に送って差し上げますよ!」
剣を振り上げる。
その瞬間、アストリアもエイリナ姫も固唾を呑んで見守っていた。
今にも飛び出そうとするレキとレニを、ロクセルとリッピーが押さえ付ける。
「陛下ぁぁぁぁあああああああああ!!」
「ユーハーン様ぁぁぁぁあああああ!!」
子どもの“
血煙が舞い散る未来を想像した時、現れたのは暗闇……。
いや、それは巨大な影であった。
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
お待たせしました。第二部におけるもう1人の主人公の登場です。
カクヨムコン6の読者選考期間は終わりましたが、
引き続き更新してまいります。
★レビューなどいただけると嬉しいです。
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