第53話 魔王登場

ついに昨日のPVが4000回超えました

レビューを付けていただいた方も、100人超え!

最高の年始となっております。

引き続きよろしくお願いします。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


 どさっ……。


 席を立った国王は、再び玉座に着いた。

 座ったというよりは、玉座が受け止めたという方に近い。

 目は放心し、謁見の間の隅に視線を向けている。


 部屋の空気は最悪と言っていい。

 皆が項垂れる一方、エイリナ姫だけが怒りを滲ませている。


「なんてことなの……。これじゃあ、内大臣とその息子に、まんまとやられたようなものじゃない!!」


「結局、10億ルドを払うしかないのか……」


 国王もがっくりと頭を垂らした。


「待って下さい、国王陛下、エイリナ姫」


 僕は2人に提言する。


「僕ができないと言ったのは、あの予算の方法ではできないと言ったんです」


 え…………?


 僕の声を聞いた人は、顔を上げる。

 再び国王陛下も、エイリナ姫も、僕の方を向いた。

 勿論隣に立ったアストリアもだ。


「実は、そのやり方には重大な欠陥がありまして」


「欠陥?」


「ユーリ……。あたしが見たところ、あなたの予算案に書かれた方法は完璧よ。それはルナミルも認めていたわ。欠陥なんて……」


 エイリナ姫は「完璧だ」と認めてくれる。

 しかし、僕は首を振った。


「いえ。欠陥はあります。この封印じゃダメなんですよ」


「え……? どういうこと?」


「だって、この方法じゃ100年ぐらいしか保たないので」


「ひゃ……」



「「「「100年!!」」」」



 皆が声を震わせた。

 みんなが驚くのも無理ないか。

 だって――――。


「そうですよね。100年じゃ短すぎますよね」


「ば、バカ! ユーリのバカ!!」


「す、すみません!」


「謝らなくてもいいわよ! ああ! 面倒くさい!! 十分よ! 100年もあれば……! そうすれば、また新しい魔法が生み出されるかもしれないし。てか、なんで100年が少ないと思えるのよ、あんたは!!」


「ご、ごめんなさい。で、でも……皆さんの願いは恒久的な封印でしょ」


「確かにそうじゃが……。100年という人間の寿命でいえば、一生分じゃぞ」


 国王陛下は髭を撫でる。


「魔法の祖――天翼族ですら、5年が精々だと言ってるのよ。100年は異常なの。あんた、そろそろ自分が高スペックなのを理解しなさいよ!」


 エイリナ姫は僕のところまでやってきて、おでこをぐりぐりと指先で突く。


 僕は「痛い痛い」と言っても、やめてくれなかった。

 よっぽど僕の事が嫌いなのだろう。


 弱ったな……。

 僕のどこが高スペックなんだろう。

 あの予算案の方法も、思いつきを10分ぐらいで書いたものだし。

 そもそもあの予算案は、別の目的ヽヽヽヽがあって書いただけなんだけどな。


「で――。ユーリがそういうのだから、他にも方法があるってことよね」


「は、はい。成功するかは、わからないですけど。とにかく僕を地下に行く許可をいただけないでしょうか?」


「うむ。では、ユーリよ。健闘を――――いや、この国を頼む」


「はい。お任せ下さい」


 僕は膝を突き、手に当てた胸に誓いを立てるのだった。



 ◆◇◆◇◆



 地下へと向かう道すがら、唐突にアストリアは足を止めた。


「どうしたんですか、アストリア?」


 質問しても、答えは返ってこない。

 やや俯き加減のまま、沈黙している。


「ちょっと何をやってるのよ。地下でルナミルが待ってるのよ」


 前を行くエイリナ姫が声をかける。


「先に行ってて下さい。場所はわかってますから」


 僕は返答すると、エイリナ姫は1度アストリアに視線を向けた。

 はあ、と息を漏らす。


「…………わかったわ。あまりゆっくりしてる時間はないからね」


 エイリナ姫は他の家臣と一緒に、その場を後にする。

 宮廷の長い廊下で、僕たちは2人だけになった。


「気付いてはいたが、君は私が思っていたよりも凄い鍵師だったんだな」


「そんなことないです。アストリアの方がずっと凄いですよ」


「ふふ……。エイリナの言う通りだ。君には全然自覚がないようだ。まあ、その才能と数奇な運命を考えれば、仕方ないのかも知れないが……」


「??」


 僕が首を傾げる。

 すると、アストリアはまた笑った。


 そして改まって、僕に向き直る。


「ユーリ……。ユーリ・キーデンス、君に話がある」


「はい。……僕もアストリア・グーデルレインに話があったんです」


 そして僕たちは、宮廷の廊下で互いのことを話し合った。



 ◆◇◆◇◆



 宮廷の地下に辿り着く。

 勝手知ったる元職場だ。

 この生臭いというか、漂っている腐臭に似た臭いも、どこか懐かしさを感じる。


「うっ……」


 口に手を当てたのは、隣に立ったアストリアだ。


「ここは魔力が濃いな」


「あなたも来たのですね、アストリア」


 ルナが進み出て来る。

 薄暗い地下の中でも、白い翼は綺麗だ。

 ほのかに光っているようにも見える。

 初めて会った時とは違って、溌剌としていた。


 さすがは天翼族だ。

 もうここの環境に慣れてしまったのだろう。

 いや、そもそも天翼族は魔力が濃い第7層に住んでいる。

 むしろ、この地下の方が住みやすい可能性もあるかもしれない。


「ああ……。特別に許可をもらった」


「それだけですか?」


「どういうことだ?」


 ルナはそれ以上答えなかった。

 ただ「ふふ」と鈴を振ったように笑うだけだ。


「それで、どうするの、ユーリ」


 封印の扉の様子を窺っていたエイリナ姫が、声をかける。


 扉はきちんと閉まっていた。

 どうやら、ルナがやったらしい。

 かなり強力な魔力によって、【閉めろロック】されているようだ。


 だが、どうやら僕が不在の間、何かあったことは明白だった。

 周囲の地形が少し変わっている。

 扉の側には土嚢を積んだような跡が残されていた。

 何で土嚢?

 用途すら僕には想像できなかった。


 僕は扉に向き直る。


「はい。説得してみようと思います」


「説得?」


 そして僕は手を掲げた。


「扉――――」



 【開けリリース



 鍵魔法をかける。


 直後、ゆっくりと扉が開き始めた。

 これには、エイリナ姫も動揺を隠せない様子だ。


「ちょ! ユーリ! 折角、ルナミルの封印を……」


「大丈夫です」


「大丈夫じゃないわよ。ほら、黒い塊がまた……」


 エイリナ姫が指を差す。

 開いた扉の隙間から、黒い塊が出てきた。

 横のアストリアも構える。

 それは、ゲヴァルドの戦いで見た物と同じだったからだろう。


 そんなアストリアを僕は手で制する。

 「大丈夫」と一言声をかけると、ゆっくりと扉に近づいていった。


「黒い塊が……」


 驚いたのは、ルナだ。


 まるで潮を引くように黒い塊が、扉の中へと戻っていく。


「まるでユーリを恐れているようだ」


 アストリアも唖然とした。


 やがて黒い塊がなくなる。

 綺麗になった扉の前で、僕はそっと声をかけた。


「サリア……。いるんだろ?」


 しばし反応はなかった。

 重苦しい空気が支配する空間で、僕の声だけが響く。

 やがて出てきたのは、青白い子どもの手だった。


 扉にそっと手をかける。

 続いて現れたのは、角だ。

 水牛のように太く、先が尖っている。

 色は黒く、どこか禍々しい。


 その瞬間、危機を察したのか、僕以外の人間たちが構える。


 だけど、僕は姿勢を変えなかった。


「大丈夫だよ、サリア。ここにいる人たちは、君を傷付けたりしないから」


「ホント?」


 ついに顔が出る。

 透明で如何にも純真そうな紫色の瞳。

 さらにプラチナブロンドの長い髪が揺れる。


 およそ人外とは思えない可愛い容姿に、大半の人間が言葉を発するのも忘れた。


「ユーリ、その子は?」


 アストリアは尋ねる。

 僕は振り返り、彼女を紹介した。


「彼女の名前はサリア……。えっと……有り体にいうと――――」



 魔王です。



~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


あら、かわいい!


本日はここまでになります。

お読みいただきありがとうございます。

引き続き更新してまいりますので、

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よろしくお願いします。

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