第23話 聖霊

 突然、前を行くアストリアが足を止めた。

 魔物かと思い、僕も警戒する。

 だが、獣の声も臭いもしない。

 なのに、アストリアは耳をそばだてていた。


「どうしました、アストリアさ――――アストリア?」


 う、うう……。

 しばらくは慣れそうにないな。


「人の声が聞こえた」


「え? 僕には――――」


 僕はよくそばだててみる。

 だが、低い風鳴りがするぐらいで、声らしくものは聞こえてこない。

 そもそも僕たちはバーマンさんのおかげで、通常のルートから随分と離れた場所にいる。


 この辺りにいる人間と言えば、僕たちの他に襲ってきた冒険者以外考えられない。


「アスキンか、その仲間が潜んでいるのでしょうか?」


「いや、女性の声だ。私でやっとということは、かなり離れた場所だな」


「アストリアって耳もいいんだね」


「私は風の聖霊ラナンと契約しているからな。大気中の震動に敏感なんだ。さっきは色々と理屈をこねたが、アスキンの企みを看破していたのも、この能力のおかげだな」


「聖霊って……」


 僕は息を飲む。

 聖霊というのは、大精霊とも呼ばれ、簡単に言うと「火」「水」「風」「土」「雷」「金」「光」「闇」の八種の精霊の上位互換というべき存在だ。


 天使とも言われ、神との交信ができる唯一の可視生物とも言われている。


 精霊と契約するだけでも、僕たち魔法を使う者にとって恐れ多いことだ。

 なのにその上位種と契約しているなんて……。

 さすがS級冒険者だ。


 僕が憧憬の眼差しで見ていると、アストリアは肩を含めた。


「そう褒められたものでもないよ。上層ではその力の片鱗すら出せないのだからな」


「あっ! そうか……」


 僕はポンと手を打った。

 第1層は下層と比べて、遥かに大気中に含まれる魔力が薄い。

 封印の扉から漏れてくる魔力に頼っているような状況だ。


 おそらく聖霊の力を使うにしても、大量の魔力が必要なのだろう。

 この第1層では、その魔力をひねり出すことができない。


 下層で生まれ育った強い魔法使いが、上層にやってきたら弱くなった。

 なんて話は、宮廷でもよく耳にする話である。


「ギャアアアアアアアアア!!」


 今度は僕にも聞こえた。

 男の声だ。

 それも複数。

 剣戟の音も聞こえる。


「アストリア!」


「行こう、ユーリ!!」


 迷うまでもなかった。

 僕たちは声が聞こえた方向に、自然と走り出していた。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


ちょっと中途半端なので、もう1本今日中に出します。

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