第5話 ライバル登場
「ただいま……」
家に帰る頃には、すでに陽は完全に下層へと没した。
夜の帳が下り、通りに並んだ魔法灯が煌々と道を明るく照らしている。
仕事を終えた男たちが街を練り歩き、誘蛾のように酒場の中に吸い込まれていった。
その雑踏の音を聞きながら、僕は酒場の隣の宿に入る。
アストリアさんには
今、母さんとフリルは宿に泊まっていて、僕の帰りを待っているはずだ。
「にぃにぃ!!」
部屋のドアを開けると、ちぱぱぱぱと元気よくフリルが走ってくる。
いつもなら真っ先に僕の方に飛び込んできて甘える妹なのだけど、今回は違う。
「おお! これがユーリくんの妹か。確かに可愛いなあ」
僕の後ろからひょこりとアストリアが顔を出す。
その瞬間、フリルは氷結魔法にかかったように動かなくなった。
かと思えば、ぽろりぽろりと泣き始める。
「うぇぇぇえええんんん!! にぃにぃが、カノジョをつれてきたぁぁぁああ!!」
「か、かかかか、カノジョ!?」
「うぇぇえええんんん! フリルとけっこんしゅるって言ってたのにぃぃぃいいい!」
「君? 妹さんと結婚する予定なのか?」
アストリアさんはジト目で睨む。
「ち、ちが――――。アストリアさんまで何を言って――――」
「まあ、人の趣味をとやかく言うつもりはないが、いくら小さい子がいいといっても、実の妹に手をかけるのは」
「だから、違いますって!」
「あらあら……。騒がしいわね。フリル、何を泣いてるの?」
ようやく母さんが、部屋の奥からやってくる。
泣き叫ぶフリルを抱き上げた。
「にぃにぃが、にぃにぃが……。カノジョがつれてきたぁぁぁあ。フリルというせーさいがいるのにぃ」
「あらあら……。ユーリ、仕事じゃなくて恋人を探してきたの?」
「ち、違うんだ、母さん! これには深い訳が!! そもそもアストリアさんは、彼女じゃなくて……」
「こほん……。彼女じゃなかったら、なんだというのだね、ユーリくん?」
何故かアストリアさんは、頬を膨らませる。
ちょ! なんで怒ってるんですか、アストリアさん!!
「フリルとは、あ
フリルは涙ながらに叫ぶ。
誰だよ。
フリルにそんな言葉を覚えさせたの!
なんか使い方がちょっと間違ってるし。
「フリル……。どろぼうねこってのは、にぃにぃを奪った女の人に向けていうものよ。だから、この場合――――」
母さんが親切丁寧に教える。
5歳児に何を教えてるんだ、母さん!!
てか、母さんの仕業か!!
「ところで、ユーリ君。その頬の腫れた痕は大丈夫なの?」
「あ、いや、これは――――」
僕は慌ててくっきりと手形が付いた頬の痕を隠した。
言えない。
アストリアさんの裸を、裸身を、全裸を、一糸纏わぬ姿を目撃してしまったからなんて言えない。
その後、反射的に平手打ちしてしまったアストリアさんからは、めちゃくちゃ謝罪を受けたけど、残念ながらあの綺麗な裸身を忘れることは、当分できそうになかった。
「ふふふ……。色々あったのね。まあ、いいわ。とりあえず立ち話も何だし、中に入りなさい。じっくり2人の馴れ初めを聞かせてもらうわ」
フリルがくずる横で、母さんは実に楽しそうに僕たちを部屋の中に招き入れるのだった。
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